PIMCOインカム戦略アップデート:柔軟性と質の高さで、利下げ局面を乗り切る
要約
- 経済・市場の見通しに加え、投資開始時の利回りを考慮すると、債券投資に魅力的なインフレ調整後リターンを見い出すことができると考えています。アクティブ運用は、債券投資家がボラティリティを乗り切るのに役立ちます。
- インカム戦略では、デュレーションはほぼ中立とし、現在はイールドカーブの5年から10年部分をターゲットとしています。
- 米政府系モーゲージ債(MBS)は、投資適格級の社債との対比でスプレッドが異例に高い水準にとどまっていることから、引き続き確信度の高い投資先です。
- 企業クレジットについては、タイトなスプレッドと経済の不確実性を踏まえて通常より配分比率を抑えていますが、クレジットのファンダメンタルズは概ね良好です。
利回りの高止まりを受けて債券の魅力が増す中、ボラティリティと経済の不確実性によりアクティブ運用に絶好の環境が生まれていると見ています。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノの質問に答え、現在の高利回りと、予想される中央銀行の政策金利の道筋に対して、インカム戦略ではどのようなポジションを取っているのかをお伝えします。PIMCOでは米国がソフトランディングに向かう可能性が高いとみていますが、経済や地政学的な不確実性の高まりにも留意しています。
問:過去数ヵ月、市場と経済に大きな動きが見られました。主なポイントを教えてください。
答:大きな進展の一つは、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げサイクルがはじまったことです。FRBは9月の会合で政策金利を0.5%引き下げ、11月にはさらに0.25%引き下げました。FRBはデータ次第の姿勢を取り続けるとみられますが、今後数四半期は緩和を続けると予想しています。興味深いのは、9月の利下げ後、長期債の利回りが大幅に上昇したことです。ここまで大きな動きが見られたのは久しぶりで、デュレーションとイールドカーブのポジショニングを評価するにあたり、今後の動向を注視しています。
米国の大統領選と議会選挙も、投資家が注目したイベントでした。長期的な影響は定かではありませんが、選挙後の市場の動きから、多くの投資家は米国の成長を支える財政政策・規制政策環境を予想していることがうかがえます。そして、これは、インフレ再燃の兆候も注視する必要があることを意味します。
米国のインフレは概ね穏やかな原則を続けていますが、数字は乱高下しています。景気軟化の兆しがいくらか見られた後、最近のデータでは米経済の底堅さが示されています。
そのため、インフレ調整後利回りを含めて利回りには大いに期待していますが、マクロのトレンドを踏まえると、今後は不安定な市場環境を予想しています。一般に、世界的な景気サイクルの同調性が低下する中でボラティリティが高まる時期は、アクティブ運用の好機です。
PIMCOの基本シナリオは、概ね市場と同じで、年率約3%のペースで拡大してきた米経済のソフトランディングを予想しています。当然、このシナリオはクレジット市場と株式市場に織り込まれており、スプレッドは縮小しています。質の低いクレジット市場の一部のセグメントでは、楽観的な見通しが慢心につながっているとみています。
リスクの認識が非常に重要です。経済が拡大を続け、基調が概ねプラスの場合、手堅い投資と、ダウンサイドリスクがより高い攻めの投資を見極めるのが難しくなります。多くの不確実性がある中、より景気や地政学に敏感な領域と同等の利回りを適切にリスクを軽減しつつ生み出しせる、と確信できる、より質の高い市場領域に投資することが、私共の役割になります。
問:インカム戦略において、デュレーション(金利リスク)など主要なリスク・ファクターをどのように考えているか教えてください。
答:ここ数年、インカム戦略をはじめPIMCOの戦略全般で、投資機会が豊富な環境が続いています。過去10年あまりと比べて戦術的なデュレーション管理をかなり積極的に行っており、これがパッシブ運用との対比でのパフォーマンスの押し上げに寄与していると考えています。
現時点では、市場がFRBの利下げを織り込んでいることや、選挙結果の影響を考慮して、デュレーションについてはほぼ中立としています。ごく一部では、パッシブ運用のベンチマークに対して、エクスポージャーのデュレーションをやや保守的に分類することもあります。
また、米国外にも柔軟に対応できるグローバルな投資機会があります。インフレ調整後利回りが米国を上回る、質の高いエマージング市場の厳選された投資機会と共に、柔軟性を活用して、豪州や英国といった金利市場を投資対象にしています。
問:デュレーションの補足として、特に米国でのイールドカーブのポジショニングについて詳しく説明してください。
答:イールドカーブのスティープ化は、債券資産全般の需要に影響を与えるだろうと考えています。数年にわたり、キャッシュレートが非常に魅力的な利回りをもたらしたため、イールドカーブの短期部分のエクスポージャーに的を絞る戦略に多額の資金が流入しました。
現在、短期部分の利回りは低下しています。また、経済の不確実性が高まっています。しばらくの間、イールドカーブのスティープ化ポジションを保持してきましたが、現在はカーブの5年から10年の部分を選好しています。
さらに、マクロデータの最近のボラティリティやFRBの政策に対する見方の変化を踏まえ、FRBの利下げの軌道とタイミングを巡って、より精度の高い取引を行っています。例えば、ほんの数ヵ月前ですが、イールドカーブの短期部分にやや過度な緩和が織り込まれていると認識したことから、それを相対的なカーブ・ポジショニングの取引に活かしました。
PIMCOの基本シナリオの見通しを踏まえ、満期の長いエクスポージャーはさほど多く取っていません。仮に厳しい経済環境に陥り、中央銀行が市場に織り込まれているよりも大幅な利下げを迫られた場合、インカム戦略のイールドカーブのポジショニングは、さらなるレジリエンス(強靭性)をもたらすはずです。
問:証券化資産とインカム戦略のクレジット部分について掘り下げたいと思います。まずはモーゲージ債について、見解を聞かせてください。
答:米政府系モーゲージ債(MBS)のスプレッドが投資適格級の社債のスプレッドより大きいという、滅多にない事象が起きています。インカム戦略では、政府系MBSを中心に組み入れています。米連邦政府が直接または間接に保証する、これらの証券に投資することに確たる根拠があり、多くの投資適格級社債より優位な利回りを得られると考えています。
モーゲージ債のその他の領域では、米政府の保証がない年数が経年したMBSに注目しています。景気後退に陥ったとしても、借り手は負担を感じるでしょうが、米国のMBS市場内の足元のエクイティは過去最高水準にあり、これが緩衝材になると考えられます。今年第2四半期と第3四半期には、インカム戦略の運用規模を巧みに活用し、この領域で数十億ドルのリスクを取りました。PIMCOは長年にわたり、市場参加者と多くの関係を築いてきました。PIMCOは最大級の投資家であり、インカム戦略の規模を活用してソーシングを進めています。証券化の形で、またはローンを調達して証券化商品に仕立てる形で進める方針です。
お伝えしておくべき関連分野の一つが、米国と欧州の消費者向け融資です。家計の自宅のエクイティがかなり大きい場合、その家計が抱える自動車ローンや学生ローンに投資することは概して厭いません。
問:モーゲージ債以外のクレジットの配分について聞かせてください。
答:PIMCOの企業クレジットのスプレッド・エクスポージャーは、歴史的に見ても下限に近い水準にあります。近々、大規模な格下げやデフォルト・サイクルが起きると予想しているからではありません。クレジットのファンダメンタルズとテクニカルはともに良好です。理由はむしろ、現在、非常にタイトなスプレッドが示唆するよりも、このエクスポージャーが景気に敏感だとみているためです。よりリスクの高いクレジット・ポジションへのエクスポージャーを若干削減し、資本構造の投資適格セグメントに振り向けました。
また、シニア担保付きバンクローンや多くのプライベート・クレジットなど、変動金利の市場セグメントについては、より慎重な見方をしています。長年、これらのセクターにとって経済環境は良好でした。2009年以降、大規模で持続的な景気後退は起きていません。しかし、大きな転換点を迎えている可能性があります。FRBは利下げを開始しました。経済に弱さが見られた場合、市場利回りが低下すれば価値が上昇する固定金利型のクレジットとは異なり、変動金利商品への投資はマクロリスクの高まりに伴って利回りが低下する状況に直面することになります。PIMCOでは、この領域で混乱が起きた場合、それに乗じる態勢を整えています。
企業クレジット内では、特異な状況が発生した際に好機を捉え、PIMCOの規模を活用して市場での圧倒的な支配力を確保できるスペシャル・シチュエーションズにも注目しています。
問:投資家の皆様から、パブリック・クレジットとプライベート・クレジットに対するPIMCOの見解についてお問い合わせをいただいています。これらの領域のバリュエーションをどう見ているか聞かせてください。
問:インカム戦略では、プライベート・クレジット市場の成長の多くが変動金利であることは意識していますが、それ以外の点はあまり重視していません。経済や地政学的な不確実性が高まり利回りが低下する中、向こう数四半期の間に投資家の考え方が変わる可能性は十分あります。
繰り返しになりますが、PIMCOではこうした全体のセンチメントの変化から生じる、あらゆる投資機会を活用する態勢を整えています。時には流動性の低い投資機会を発掘し、それらをより流動性の高い形にパッケージ化しています。重視し過ぎるつもりはありませんが、選挙が終わり、マクロ経済と地政学的な不確実性がかなり高い時期に、流動性を持つのは重要だと言えるでしょう。
問:インカム戦略のエマージング市場のポジショニングはどうなっていますか。通貨についての方針も聞かせてください。
答:エマージング市場については、機会を見い出した際にポジションを追加できる大きな余地を確保しつつ、引き続き的を絞っています。エマージング市場は、グローバルな投資機会の中でもボラティリティが高い傾向がある領域であり、足元のスプレッドはやや小さめです。一部にバリュエーションが妥当な領域があり、現地通貨建て債券の一部は、小規模な分散ポジションとして理に適っているとみています。小規模なアクティブ運用を実践している例として、ブラジル、メキシコ、南アフリカが挙げられます。
通貨バスケットに関しては控えめなポジションを持つ傾向がありましたが、現在は相対バリュー志向が強くなっています。通貨ポジションは年初来で若干のプラスの追加リターンを生み出しています。ただ、米ドルに関する方向性エクスポージャー全体は、比較的小さめです。
問:2022年に短期金利が上昇した際、現預金とマネー・マーケット・ファンド(MMF)が大幅に増加しました。現在、FRBが利下げを開始したにもかかわらず、現金からの乗り換えが急ピッチで進んでいるようには見えません。この点についての見解を聞かせてください。
答:現金利回りは低下しており、今後も低下を続けるとみられます。しかし、そのスピードについてははっきりしません。最近まで現金は好調だったため、多くの投資家が現金を動かさず、長過ぎると言えるほど寝かし続けているのも驚くことではありません。
重要なのは、経済・市場の見通しに加え、投資開始時の利回りを考慮すると、現在、債券にインフレ調整後の魅力的なリターンを見い出すことができるということです。現金で寝かしている投資家は、潜在的に非常に魅力的なリターンを固定できていないことになります。私からは、まずご自身の状況を評価し、本当に必要な現金の流動性はいくらなのか見極めることを提案します。その上で、イールドカーブに沿って長期に向かって投資対象を移動し、ほぼ20年ぶりの魅力的な名目・実質利回りで固定することが理にかなっているかどうかを熟考いただければと思います。
ご留意事項
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境下ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。政府系および非政府系モーゲージ担保証券は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。ジニーメイ(GNMA、連邦政府抵当金庫)が発行する米国政府機関系モーゲージ債は、米国政府による元利金支払の保証付き債券です。フレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)及びファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)が発行する債券は当該機関が期日通りの元利金支払いの保証をするものの、米国政府による保証はありません。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、また流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。
本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。
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