PIMCOインカム戦略アップデート:2025年の不確実性を乗り切る
要約
- 魅力的な債券利回りは、絶対ベースでも相対ベースでも債券に良好な見通しをもたらしています。相対ベースでは、完全に織り込み済みの状況に近い株式に対しても、利回りが低下している現金に対しても魅力的です。
- インカム戦略では、金利エクスポージャーを若干増やしましたが、長期債については引き続き慎重な姿勢を継続しています。
- 米政府系モーゲージ債(MBS)は、投資適格級の社債との対比でスプレッドが異例に高い水準にとどまっていることから、引き続きオーバーウエイトとしています。
- クレジット・スプレッドが縮小する中、企業クレジットのエクスポージャーは引き下げましたが、企業のファンダメンタルズは概ね健全だと考えています。
経済の不確実性がリスクと機会の両方をもたらす中、魅力的な利回りの継続は、債券アクティブ運用会社にとって好機の到来を示すものだと考えています。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノの質問に答え、高利回りと高い不確実性の中でインカム戦略がどのようなポジショニングを取るかについて論じ、第2次トランプ政権の初年度に財政・金融政策が転換する可能性についても考察します。
問:今後1年の市場と経済に対するPIMCOの見通しを教えてください。
答:債券利回りは過去20年に比べて高い水準にとどまっています。政策や景気の先行きについてかなりの不確実性があり、今年はボラティリティが高まる可能性が高いと考えられます。トランプ大統領は、関税引き上げ、減税延長、一部の政府支出の削減に注力するという、非常に明確な姿勢を示しています。投資家にとって重要なのは、トランプ政権が経済の現実と市場のシグナルに合わせて、政策をどの程度調整する意思があるのか、という点です。
世界の経済成長サイクルは同調性が低下していますが、トランプ政権の政策は、この傾向を助長させる可能性が高いと考えられます。中国はディスインフレ圧力により成長が鈍化しており、日本のインフレ率は日銀の目標を優に上回る水準で推移しています。米国では引き続き景気に勢いが見られますが、欧州、英国、豪州の状況はもっと複雑です。
米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする中央銀行は、インフレ率やその他の経済データを踏まえ、妥当な範囲で金利をさらに引き下げたい意向をもっているとPIMCOではみています。ただ、財政政策が経済のトレンドを覆す可能性があるという意味で、中央銀行は不確実性を抱えながら政策運営を行っています。これにより中央銀行は、より保守的な姿勢をとり、しばらくの間、政策方針を据え置く傾向が強いでしょう。PIMCOの基本シナリオから大きく外れたシナリオも考えられます。その1つは、インフレが高進し、インフレ期待が高まり、FRBが方針を転換して、年内に小幅な利上げを実施するシナリオです。あるいは、成長率と雇用市場が予想外に低迷した場合、FRBは想定よりも早く利下げを検討する可能性があります。
これほど不確実性が高い状況では、投資家は気後れしてしまうかもしれませんが、肝心なのは、グローバルな投資機会を通じて魅力的な利回りが手に入ることから、今日の債券市場には大きな価値があり、さらにボラティリティに対する大きなクッションになりうる、ということです。
問:金利の軌道について不確実性がある中、投資家は債券、株式、現金について、どのように考えるべきでしょうか。
答:現在の債券は価格が魅力的であり、過去10年あるいは20年に比べて魅力的な利回りを提供しています。株式については、どんな指標で見ても充分に織り込まれていると考えています。この2つの資産クラスを比較すると、株式は債券に比べて過大評価されていると言えるでしょう。これは、絶対ベースでも、株式と比較した相対ベースでも、ここから5年から10年の債券にとって良い兆候だと考えられます。
イールドカーブのフラット化を踏まえ、多くの投資家は現金にシフトしたり、滞留したりしました。しかし最近、デュレーションの長い債券の利回りが上昇したことで、イールドカーブの上方の傾きが戻ってきており、満期を延長することへの魅力的な対価となっています。この対価はわずかながら現金をも上回っています。こうした動向が2025年にどう進展するのか、特に中央銀行が政策金利の引き下げを続けた場合にどうなるかが注目されます。
問:PIMCOの見通しを踏まえ、インカム戦略におけるデュレーション(金利リスク)、イールドカーブ、グローバルなポジショニングについての考え方を教えてください。
答:市場は既に、米国の経済成長に関するかなり楽観的な見方を反映しています。PIMCOでは景気変動の影響を受けやすい領域へのエクスポージャーを徐々に引き下げ、より質の高い債券のグローバルな投資機会を活用しています。また、昨年末の急落を利用してインカム戦略全体の金利エクスポージャーを増やしつつ、代替的なパッシブ戦略との対比でのデュレーションのアンダーウエイトを継続しています。
イールドカーブでは、ここしばらくの間、主に中期の満期を重視してきました。また、最近のスティープ化に伴い、一部のエクスポージャーをイールドカーブの外側に若干シフトさせました。10年物のエクスポージャーを若干追加しつつ、全体としては引き続き中期ゾーンを選好しています。
米経済の勢いが際立つ中でも、米政府は膨大な赤字を抱えており、多くの投資家が米国の債務を疑問視するようになっています。米ドルが世界の準備通貨であることを踏まえると、赤字は管理可能だとみていますが、米国以外の市場も活用し、財政状況が良好で、経済がそれほど急速に拡大していない国・地域にエクスポージャーを分散させています。英国、豪州、さらにはエマージング市場の質の高いセグメントの一部で控えめなデュレーション・エクスポージャーを保有しています。
問:インカム戦略は、債券市場の証券化セクターで大きなポジションをもっています。モーゲージ債への配分はどうなっていますか。また、第2次トランプ政権下での政府系企業(GSE)の今後について、どう見ているのか聞かせてください。
答:ここしばらく、米政府系モーゲージ債(MBS)をオーバーウエイトしてきました。これらの証券には投資すべき強力な根拠があるとの見方を継続しています。利回りがほとんどの投資適格債を上回っており、これは滅多にないことです。さらに、米政府系機関または米連邦政府の保証がついています。またモーゲージ債は通常、市場の中で非常に流動性が高いセグメントです。そのためクレジット・セクターに再び懸念が広がったり、モーゲージ債がやや割高になったりした場合、一部の資産をモーゲージ債から他の投資機会にシフトすることを検討できます。
トランプ政権は、政府関連機関(GSE)を民営化、または資本増強して監督下から外すことを検討する可能性が高いでしょう。いずれによせ、強力な暗黙的あるいは明示的な米政府の保証が付されると予想しています。トランプ政権や多くの議員が米国のモーゲージ市場を世界の他地域のモデルと見なし、住宅ローン金利を比較的低水準で抑えたい意向を持っているのは確実だと見ているためです。つまり、GSEの民営化の動きは、その基礎となる信用ファンダメンタルズの底堅さを強める可能性が高いのです。そうだとしても、そうした展開は、その可能性が周知されているにもかかわらず、ボラティリティを高める要因になりえます。
問:非政府系MBSやその他の証券化クレジット資産への配分について教えてください。
答:消費者債務の対GDP比が良好で、自宅の自己保有分が高水準であることから、最近の家計の信用状況は全般に良好です。当戦略に組み入れている非政府系モーゲージ債は経年化が進んでいる傾向があります。2024年第4四半期に追加したローンは概ね、世界金融危機前に組成されたもので、ローントゥーバリュー(LTV)が50%未満でした。こうした証券は社債よりも複雑ですが、自宅の自己保有分が高水準であることが下落へのクッションになっており、非常に魅力的な追加の利回りを提供します。
その他の消費者信用市場も選好しています。消費者向け融資に対する規制当局の精査は、非金融企業分野向けに比べ厳格です。私共は、自宅の自己保有分が分厚い世帯に焦点を絞り、自動車ローンやクレジットカードローン、親の保証付きの学生ローンなど、他の融資を提供しています。多くの場合、PIMCOが保有するのは、そのリスクの投資適格部分のみです。
問:インカム戦略では、商業用モーゲージ担保証券(CMBS)のポジションを保有しているのでしょうか。
答:現時点でインカム戦略におけるCMBSのエクスポージャーは限定的で、その大半がAAAのシニア・ダイバーシファイド・リスクです。より高い金利が長期化する環境は、商業用不動産には理想的とは言えません。また、予想外に経済が低迷した場合、商業用不動産市場は、他の変動金利型のクレジット市場と同様に軟化する可能性があります。そうなれば、私共にとって買いのチャンスになりえます。
問:社債市場の見通しを聞かせてください。
答:過去数ヵ月間、クレジット・スプレッドの縮小と株式バリュエーションの上昇を受けて、クレジット・ベータのエクスポージャーを引き下げてきました。
騒ぎ立てるつもりはありませんが、企業クレジットのうち、伝統的な固定金利型の投資適格債とハイイールド債のファンダメンタルズは堅固だと考えています。多くの企業が債務の期限を満了し、純発行は比較的低水準で、収益は維持されています。固定金利クレジットの魅力的な領域では、引き続きある程度のエクスポージャーを保有していますが、スプレッドの縮小を理由に配分を調整しています。
変動金利型クレジット市場では、より防御的な姿勢をとっています。エクスポージャーは限定的で、ほとんどは資本構造のシニア部分です。シニア担保付ローンの分野では、高金利の長期化への対応を企業に求める圧力高まっていることから、メザニンや劣後へのエクスポージャーはあまり持っていません。PIMCOは、市場における規模と専門知識を生かして、取引の際にコベナンツの考慮事項の改善を依頼するなど、企業クレジット市場で影響力を持っています。2025年は企業の合併・買収(M&A)の増加が予想されますが、市場でのPIMCOのポジションを生かして、必ずしもクレジット・ベータへのエクスポージャーを増加させることなく、独自の投資機会を捉えることができる可能性があります。
問:銀行についての考え方を教えてください。
答:銀行は問題ないとみています。銀行は依然としてかなりの規制圧力にさらされています。また、過去と同じタイプのリスクを取っているわけではありません。トランプ政権は米国の厳しい規制の一部を緩和する可能性がありますが、銀行セクターは引き続き健全であるとの予想を継続しています。
とはいえ、当戦略の金融エクスポージャーは、資本構造の上位のポジションに的を絞っています。これは銀行について懸念しているからではなく、消費者信用市場により興味深い投資機会があると見ているからです。
問:次にインカム戦略におけるエマージング市場のポジショニングについて教えてください。
答:エマージング市場へのエクスポージャーは過去に比べてやや縮小していますが、これはエマージング市場に対する懸念というより、他のセクターや地域に興味深く、強靭な投資機会があると見ているためです。とはいえ、アンダーパフォームとなっていたため投資機会があると判断した一部の質の高い地域には投資してきました。メキシコ、中東の一部地域、南アフリカなどです。成長の同期性が低下した世界では、エマージング市場でも先進国市場でも、米国以外の市場が、戦術的取引でポジショニングをシフトさせる大きな機会を提供すると予想しています。
通常、全体的な為替リスクは比較的低水準で抑えることを目指しています。過去1年ほどは、厳選された利回りの高いエマージング市場をオーバーウエイトとし、一部の低利回り市場をアンダーウエイトとする、相対価値アプローチのアクティブ運用を行ってきました。
問:最後に投資家へのメッセージをお願いします。
答:現在の環境では、流動性や柔軟性が、少し過小評価されているように見受けられます。インカム戦略は、過去に比べて非常に流動性の高いポジションを取っており、好機が到来した時に柔軟に活用できると考えています。見通しの不確実性の高さを踏まえると、この点は特に重要だと考えます。
そして、忍耐力には価値がある、ということも付け加えておきたいと思います。現在のように魅力的な利回りがあるなかでは、債券市場の質の高いセグメントにおいて焦らずにいられる余裕があります。昨年が好例で、多くの紆余曲折があり、年末にかけて金利が上昇しましたが、それでもアクティブ運用会社は魅力的なリターンを生み出すことができました。今年は債券利回りがさらに上昇すると見ており、他の資産クラスのバリュエーションが拡大しているため、債券での忍耐力が報われると考えています。
ご留意事項
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境下ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。政府系および非政府系モーゲージ担保証券は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。ジニーメイ(GNMA、連邦政府抵当金庫)が発行する米国政府機関系モーゲージ債は、米国政府による元利金支払の保証付き債券です。フレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)及びファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)が発行する債券は当該機関が期日通りの元利金支払いの保証をするものの、米国政府による保証はありません。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、また流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。
本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。
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