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寄稿文

債券、投資開始時の利回りは高水準

日経ヴェリタスMarket Eye寄稿文(2024年6月9日付)に掲載。約20年ぶりの高水準の利回りに加え、金利低下に伴うリターンが得られることから、長期投資には債券がより魅力的といえるでしょう。

約3年続いた高い金利ボラティリティー(変動率)期を終え、債券の見通しは良好だ。投資開始時点の利回りは十数年ぶりの高水準で市場は世界の中央銀行の緩和開始を予想している。

投資家が警戒するのは当然だ。2022年には歴史的に金利が上昇し、ほとんどの債券セクターでリターンがマイナスになった。23年、24年は利回りが健全な水準に上昇し、多くの投資家が現金から債券にシフトし始めたが、ボラティリティーの再燃に見舞われた。

しかし債券投資を始める条件は有利になっている。3月末のブルームバーグとPIMCOのデータに基づくシナリオ分析では、現在の投資開始時点の利回りは潜在リターンを魅力的な水準で固定しつつ、金利のさらなる上昇に対する緩衝材となる。

24年が23年と似た経路をたどり年末と年初の金利水準が変わらない場合、マルチセクターの債券カテゴリーで6%という高水準の期待リターンが見込まれる。金利が上昇しても200bp(ベーシスポイント、1ベーシスは100分の1%)以上上昇し7%近くをつけなれば、信用スプレッドが一定の場合、リターンはマイナスにはならない。

コア債券など金利感応度が高いカテゴリーも、投資開始時の利回りが低かった22年と違い、金利が小幅上昇したとしてもリターンはプラスにとどまるだろう。逆に金利が1%低下しただけで、リターンが二桁台に急騰する可能性がある。

一方、金利低下の恩恵を受けられないのは通常、現金だ。ほとんどの債券セクターで上昇が見込まれる中で、好機を逃すことになりかねない。

23年は、投資開始時の利回りが魅力的で、債券投資のダウンサイドリスク軽減とリターンに寄与した好例だ。米国では金利変動が大きかったにもかかわらず、米国債のイールドカーブの外側(短期、長期)の多くの利回りは年初とほぼ同水準で年を終え、魅力的な債券リターンを一桁台半ばから後半に押し上げた。金利は10月まで上昇したものの、ほとんどの債券セクターは利回り上昇に伴う金利収入が価格下落を相殺し、プラスのリターンを維持するか小幅なマイナスにとどまった。

22年は違った。投資開始時利回りは低く、金利とスプレッドの動きは急で、ほとんどの債券セクターのリターンがマイナス圏に陥った。

24年の投資開始時の利回りは、22年の低水準ではなく23年の高水準にずっと近い。ブルームバーグ米国総合債券指数の年初の利回りは22年が1.70%、23年は4.65%、24年は4.52%だ。

現在は債券の上昇局面の初期である可能性を歴史は示唆している。1978年以降、過去7回の米連邦準備理事会(FRB)の利上げサイクルで最後の利上げ後、債券は1年ないし2年以上上昇を続ける傾向があった。

FRBの緩和後、短期の利回りは大幅に低下する傾向があり、現金リターンを阻害する。一方、満期の長い債券では金利が小幅低下しただけでも金利低下に伴う価格上昇によって、債券ポートフォリオは大幅にアウトパフォームする可能性がある。

当面は短期金利の上昇で現金の魅力が続く可能性はある。だが、約20年ぶりの高水準の利回りに加え、金利低下に伴うリターンが得られることから長期投資には債券がより魅力的だ。

円建て投資家にとって日米の短期金利差が大きく、為替ヘッジコストが懸念だ。当面のヘッジ後利回りを重視する向きには為替水準に留意しつつも、為替ヘッジ無しの債券を検討する価値がある。ヘッジコストを節約しつつ、米国債券と為替の相関関係から分散効果も期待される。

より長期的な総合リターンを重視する向きには為替ヘッジ付き投資も有効だ。利上げサイクル後には時間の経過とともに政策金利及び金利水準が低下し、ヘッジコストの低減と債券のキャピタルゲインが期待される。長期の債券リターンに向けて現地通貨建て利回りが投資時点のヘッジ後利回りより重要であることを、歴史は示唆している。

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