気候とCOP27:政治的圧力、投資への意味合い
要約
- 毎年開催される国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)は、世界の優先事項である気候変動への取り組みを強化します。会議には政府、PIMCOのような投資家、その他のステークホルダーが集まり、対策の戦略を立案し、課題について議論し、新たなパートナーシップを構築します。
- 27回目の開催となったCOP27では、国連加盟国が、深刻な気候変動の影響を受けやすい国の対応を支援することで合意しました。
- COP27の主要テーマうち投資関連のテーマとしては、炭素市場、気候変動の直接的な影響に関わるリスク、世界的なネットゼロ目標の達成に必要な実物資産への長期的な投資機会などです。
先頃、エジプトで開催された第27回国連気候変動会議(COP27)は、期待を裏切ることなく、200か国近い参加国の交渉担当者が、気候変動対策の1つの節目に到達すべく、深夜までぎりぎりの交渉を重ねました。明け方近く、いわゆる「シャルム・エル・シェイク実施計画」が採択されました。国連加盟国は、深刻な気候変動の影響に脆弱な国の対応を支援するため「損失と被害基金」を設立することで合意するとともに、世界の気温上昇を産業革命前の水準比で1.5度に保つという目標を再確認しました。
しかしながら、この政治的成果は、多くの政府交渉担当者、気候科学者、市民活動団体に不満を残す結果になりました。それは最終合意文書に、EUやインドなどが求めていた化石燃料使用の削減が明示的に盛り込まれなかったことためです。これが国連会議のレアルポリティーク(現実的な政治)であり、最終合意は、大方が容認し、一部が喜び、一部は拒否する内容に落ち着くことがよく知られています。
COP27の政治的成果は、投資家に影響を及ぼすと見られています。PIMCOからは2人の代表がいくつかのハイレベルのイベント、サイドライン・セッション、二国間協議に参加しましたが、COP27は特に世界的なエネルギーの移行に関して、投資家コミュニティの重要な足がかりになったと考えています。
気候変動リスクと対策に関する民間セクターの視点
COP27では、民間セクターとプライベート・ファイナンスの存在感が際立っていました。民間セクターの参加者が注目した主要テーマは、以下の3点です。(1)気候変動の直接的な影響に関わる投資リスク、(2)炭素市場が化石燃料投資と再生可能エネルギーの経済性を再調整する際の移行コストと、考慮すべき事項、(3)世界的なネットゼロ目標を達成するために必要な実物資産への長期的な投資機会。COP27では、これら3つのテーマがそれぞれ強く打ち出されていました。
ポートフォリオや経済に対する気候変動リスクを評価するにあたり、デロイト・センター・フォー・サステナブル・プログレス(DCSP)が事前に発表した報告書によれば、気候変動に何の対策も取らなかった場合、今後50年間の世界経済の損失は178兆ドルにのぼると推計されています。これは2070年だけで世界のGDPに7.6%にあたります。こうした予測を受けて、国連グローバルコンパクトの「気候への配慮に関するハイレベル」イベントに出席した(PIMCOを含む)代表者が議論したのは、民間セクターにおける脱炭素化戦略をより野心的なものにするための方法や、工業用品および商業用商品の効果的な基準の設定に向けて政策立案者や規制当局とどのように対話していくか、また気候変動債、グリーンボンド市場の信頼性の拡充と改善についてです。
COP27では、急速に進化する炭素市場がテーマとなりました。OECDによると、カーボンプライシングは現在、世界の炭素排出量の40%以上をカバーしており、価格は1トンあたり90ドルのレンジに上昇しています。これに関連して、自主的な炭素市場を拡大するための新た取り組みが進行中で、COP27では、ブルームバーグ・フィランソロピーズと、そのパートナーがグローバル・カーボン・トラストを立ち上げました。米国のジョン・ケリー気候変動問題担当大統領特使は、途上国に向けた、二酸化炭素をオフセットする構想「エネルギー転換アクセレレーター」を発表しました。PIMCOでは、地政学的な不確実性やエネルギー市場のその他のボラティリティ要因は認識しつつも、世界的な炭素価格の上昇という長期トレンドは確かなものであると考え、ネットゼロを睨んだエネルギー源への移行を踏まえた投資の議論を強化しています。
投資機会に目を向けると、マッキンゼー・サステナビリティの推計によれば、世界のネット・ゼロに向けたコミットメントによる実物資産とサステナブルなインフラへの2021年から2050年の支出は275兆ドルに及ぶとされています。COP27のサイドイベント「移行の加速」では、こうした予想支出額の大きさの意味合いについて議論し、エネルギーのレジリエンス(強靭性)の視点から投資することの重要性を強調しました。こうした視点の重要性は、投資が今後、企業や公的部門とどう関わっていくかについて、興味深い示唆をもつ可能性があります。鍵となる疑問がいくつか浮かんできます。経営陣や公的機関は、エネルギーレジリエンスの重要性を理解しているでしょうか。理解しているとすれば、どのような具体的な政策や手段を取っているでしょうか。レジリエンスの概念は、たとえばサプライチェーン管理や地政学的リスクなど、サステナビリティの他の問題にも及んでいるでしょうか。レジリエンスの概念と実装に関連する主要な業績評価指標(KPI)にはどんなものがあるでしょうか。
投資家にとってのさらなるポイント
加えてPIMCOが、COP27で市場と投資家にとって重要なトピックとして注目したのは次の3点です。
- 科学的根拠に基づいた目標 :規制当局を含め多くのステークホルダーは、企業と投資家の提携によりネット・ゼロ・コミットメントのイニシアチブをますます精査しており、こうしたイニシアチブは新たなガイドラインと移行評価計画を作成する必要があるかもしれません。この観点から科学的根拠に基づいた目標の設定とモニタリングの重要性が強調されました。たとえば、約2000社の企業が、サイエンス・ベースト・ターゲッツ・イニシアチブ(SBTi)によって検証・承認された目標を設定しています。SBTiは、気候科学に沿った排出量削減とネットゼロ目標のベストプラクスの定義・促進を目指す、複数の国際機関によるパートナーシップです。
- 気候変動とSDGs :PIMCOとマーサーが共催した特別セッションでは、気候変動対策と、幅広い持続可能な開発目標(SDGs)の強いつながりを確保することの重要性について議論を行いました。なかでも、健康、労働者の権利、ジェンダー平等など、主要な「社会(S)」の目標が重要になります。戦略的思考とパートナーシップは、よりサステナブルな世界経済への移行に貢献するのに役立ちます。基本的には、コミュニティと労働者への社会的混乱を最小限に抑えながら、特に雇用に関連する新たな経済的機会を最大化します。
- パートナーシップ:COP27では、セクター横断的かつ複数のステークホルダーを巻き込んだパートナーシップの重要性が強調されました。気候変動やSDGsなどのより広範な地球規模の目標に取り組むことは、公的セクターであれ民間セクターであれ、特定のステークホルダー・グループの手に負えるものではありません。国連グローバルコンパクト、責任投資原則、その他の提携といったイニシアチブは、協力し合いながらの学びや複数当事者の行動を促進するうえで不可欠です。
最後に、投資家や企業をはじめ国際社会のCOP27に対する期待は、かなり低いものでした。PIMCOでは、今回のグローバルな政策や政治的成果は無難なもののと評価していますが、気候変動対策を世界的な優先事項として位置づけ、(投資家を含めた)多数の関係者を招集して解決策に関する戦略を立案し、課題について議論し、新たなパートナーシップを構築するうえで、国連COPシリーズは貴重な役割を果たしていると引き続き考えています。
サステナブル投資に関するさらなる知見については、PIMCOのウェブサイト、ESGのページをご覧ください。
ご留意事項
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