現金から債券へ:パンデミック後の投資における戦略的転換
パンデミック後の市場や経済の混乱が収まるにつれ、長期的なトレンドが再び顕在化しています。1月にブルームバーグ米国総合指数の一般的な利回り指標が、1年以上ぶりに米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利(FF金利)を上回り、これは、市場が過去の傾向に回帰しつつあることを示す重要なシグナルの一つだといえます。
これほど長期間にわたって、ベンチマークとなる債券利回りがFF金利を(時に大幅に)下回る状況がいかに異常であったかは、いくら強調してもし過ぎることはありません。この状況は今世紀、パンデミック以前では4回しか起こっていません。しかも、数週間以上続いた例はありませんでした(図表1を参照)。
通常の市場トレンドがこのように長期にわたって反転した背景には、FRBの引き締め政策だけでなく、極端なインフレ急騰やその他のパンデミックの影響に対する投資家の反応があります。多くの投資家は、数十年ぶりの利回りをもたらし安全と目される現金に退避し、滞留しました。
状況の変化
それから2年が経ち、市場の状況は様変わりしています。FRBが利下げに乗り出した現在、現金への過剰配分は再投資リスクを生み出します。資産が急速かつ繰り返し低利回りで回転していくためです。
時を同じくして、債券利回りがパンデミック期の低水準から大幅に上昇する状況も目の当たりにしました。金利の低下に伴って利回りが低下する現金と比べて、債券はより魅力的な投資機会を提供します。同じコア債券指数の利回りを、現金の一般的な代理指標である3ヵ月物米財務省証券の利回りと比較した場合を考えてみましょう(図表2を参照)。過去2年間、現金と債券はどちらも魅力的な利回りを提供してきましたが、現金投資家は、その性質上、これらの利回りを長期間固定することはできません。FRBが政策金利を0.5%引き下げた9月以降、コア債券に対する現金利回りの見通しは急激に低下しています。
FRBの軌道は予見された結論ではなく、実際、12月の会合後に当局の金利予想は上方修正される可能性もあります。ただ、これまでのデータやコミュニケーションでは、最も蓋然性が高いシナリオとして徐々に金利を引き下げることが示唆されています。FRBは、労働市場が健全でインフレ率が目標水準近辺にある、米経済のソフトランディングを確実にしようとしています。貿易政策、地政学、価格ショックなどの予想される障害、予想外の障害にかかわらず、目標を追求できる柔軟性を備えています。このような金利環境は、債券にとって非常に有利です。
長期的視点で見た債券
現在の相対的なバリュエーションと市場環境を念頭に、信用力と流動性の高いパブリック債券市場に大きな投資価値があると考えています。投資開始時の利回りは、様々なリスクと流動性の特性を有する、現金を含む他の資産と比べて魅力的です。歴史的に見ても、開始時の利回りは長期の債券パフォーマンスの強力な指標となってきました。
また債券は、基本シナリオ以外の様々なシナリオを乗り切るのに適したポジションにあります。歴史的に見ても、質の高い債券はソフトランディング時には好調に推移し、仮に景気が後退した場合には、さらに好調な展開となる傾向があります。雪の結晶と同じで、2つとして同じ金融サイクルはありませんが、債券は歴史的に様々な利下げシナリオで、良好なパフォーマンスを発揮してきました(図表3を参照)。FRBが非常に緩やかな(「より長期間、高レベルの金利」の)アプローチを取った場合も、大胆な引き下げを開始した場合も、あるいはそれら両極端の間の利下げ軌道を取った場合も、それぞれ過去の金利環境において、債券はその後、現金を上回る利回りを記録しています。
リスクのヘッジと分散
債券市場は、事実上、投資家にとってのリスクをヘッジし、分散する役割を果たしています。株式市場は歴史的に、利下げサイクルではもっと変化に富み、実際、時間の経過とともにボラティリティが高まる傾向があります。現在、世界の主要国でリーダーが交代し、地政学的な不安が高まっている時期です。
債券と株式は、パンデミック後のインフレショック期には連動した動きを見せましたが、現在は負の相関関係にあります。債券と株式の負の相関関係は、ポートフォリオを安定させるアンカーとしての債券の役割を強めています。
過去のトレンドも、債券が魅力的なリスクヘッジ手段であることの裏付けとなっています。1973年以降の債券市場と株式市場の平均を振り返ると、米国のコア債券の利回りが約5%以上で、現在のように米国株の株価収益率が30倍を超えている期間中、債券はその後の5年間のリターンが株式を上回り(図表4を参照)、ボラティリティも低くなる傾向が見られました。
債券への投資は、魅力的な利回りを提供し、価格上昇の可能性が期待できるとともに、株式やその他のボラティリティの高い資産が減価していくリスクへの流動性ヘッジにもなります。
主な結論
市場が示すシグナルとFRBの動きは、債券利回りが転換点を迎えたことを表しています。高い投資開始時の利回りと、予想される金利低下により、幅広く債券の見通しは魅力的です。現金に投資し続けている投資家は、債券への投資を検討しても良いかもしれません。
ご留意事項
全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境下ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。ソブリン証券は通常、発行体政府によって保証されています。米国政府機関の債務は米国政府からさまざまな形で支援を受けていますが、政府による全面的な保証は付与されないことが一般的です。こうした証券に投資するポートフォリオに対する保証はなく、ポートフォリオの価値は変動します。
バークレイズ米国総合インデックスはSECに登録された米ドル建て課税証券を代表するインデックスです。こうした状況はインデックスは米国の投資適格固定利付債市場を網羅し、政府債、社債、モーゲージ・パススルー証券、資産担保証券といったインデックス・コンポーネントに分かれています。こうした主要セクターはさらに細分化されたサブ・インデックスに分けられ、それぞれのサブ・インデックスの値が定期的に算出され、発表されています。
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