インカム戦略アップデート:レジリエンスの構築と質の高い資産での利回りの活用
- 金利が急上昇し景気後退が迫る中、PIMCOでは金利エクスポージャーを若干増やしましたが、やや防御的な姿勢を継続します。PIMCOでは、満期までの期間が短く質の高い債券を選好しています。これらの債券は、ここ10数年の水準を上回る利回りをもたらすほか、金利が低下した場合にトータル・リターンが押し上げられる可能性があります。
- クレジット市場全体で保守的なポジションを継続し、質が高く、シニアのポジションに的を絞っています。特に証券化クレジット市場においては、過度なリスクを取ることなく6%~6.5%のレンジの利回りを確保できる可能性のあるポジションを重視しています。
- PIMCOでは、米国の政府系モーゲージ債(MBS)を徐々に追加しています。これらの証券は、政府または政府機関の保証が付されており、流動性が高く、スプレッドが歴史的に魅力的な水準にあります。また固有の非効率性を生み出す複雑さから、経験豊富なアクティブ運用者には有利になる可能性があります。
- PIMCOの企業クレジット・エクスポージャーは、投資適格債市場とハイイールド市場の格付けの高いセグメントのうち、意欲的な売り手が価格を引き下げ、割安になったとみられる厳選した銘柄やセクターに概ね限られます。
- エマージング市場では、特に地政学的な不確実性に悩まされている欧州や中国などの地域でエクスポージャーを減らしました。PIMCOのポジションは引き続き、質の高いソブリンや準ソブリンへのエクスポージャーが中心です。
経済の不確実性が高まる中でも、債券市場は魅力的な価値を提供しますが、慎重さと厳選が必要です。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、深刻な景気後退の影響を遮断するよう引き続き努めながら、足元で高まっている債券利回りを確保すべく、インカム戦略でどのようなポジションを取っているのかをお伝えします。
問:先進国市場全般での景気後退のタイミングと深刻度、また、それがインカム戦略のポジショニングに及ぼす影響について、PIMCOの最新の見解を聞かせてください。
アイバシン:PIMCOの基本シナリオでは、世界的な中央銀行の引き締めを受けて米国経済は大幅に減速し、少なくとも緩やかな景気後退に陥る可能性が高いと見ています。言うまでもありませんが、景気が失速ないし小幅鈍化した場合、経済は予期せぬショックに対して極めて脆弱になり、見通しはさらに不確実になります。また、米国と欧州のインフレ率は今年年末時点で中央銀行の目標を上回ると予想しており、深刻な景気後退(ハードランディング)が発生した場合、中央銀行の政策緩和の余地が限られるとみています。世界金融危機で起きたような悲惨な経済シナリオは予想していませんが、投資家は慎重であるべきだと考えています。
幸い、金利の急激な上昇で債券市場では大きな価値が生まれています。価値が戻ったことから、魅力的なリターンを生み出すために景気の影響を受けやすい分野でそれほど積極的になる必要がありません。PIMCOでは、質が高く流動性の高い資産に魅力的な価値を見い出しています。これらの資産は予想以上に深刻な景気後退下でも底堅く、中央銀行が緩和に転じた場合にはトータル・リターンが高まる可能性があります。投資家は長らく見られなかった魅力的な利回り(一部の分野ではスプレッド)を活用しながら、より慎重な姿勢を取ることが可能です。
問:市場は年内の利下げを織り込んでいます。市場が織り込んでいる政策金利に対して、PIMCOの政策金利の行方に関する見解を聞かせてください。
アイバシン:PIMCOでは、米国のインフレ率は、米連邦準備制度理事会(FRB)の目標の2%に対して、年末にかけて3%を優に上回って推移する可能性が高いとみています。賃金に関連する「粘着性の強い」カテゴリーの緩和が遅々としているためです。FRBは今月、政策金利を0.25%引き上げた後、追加利上げを一時休止する意向を示しました。銀行セクターのストレスが続き、融資基準が厳格されていることから、インフレを抑えるには現状で十分だとみられますが、少なくとも2024年まではインフレ率がFRBの目標水準に下がるとは予想していません。そのため、FRBが利下げに転じる可能性は、市場が現在織り込んでいるほど高くないと考えています。
欧州では、4月に総合指数で7%に達した頑固な高インフレを抑制するために、欧州中央銀行(ECB)は現在3.25%の政策金利をさらに3.5%から4%に引き上げる必要があるだろうとみています。
問:次に財政政策についてお聞きします。政府債務の水準が高まった現状で、政府が介入してより多くの支援を提供できるか否かについて、市場は完全に織り込んでいると思いますか。
アイバシン:市場の一角はハードランディングのリスクの高まりをある程度織り込んでいると考えていますが、十分に高いリスクではないとPIMCOではみています。景気変動に敏感な分野の一部は、そうでない分野に比べてスプレッドが拡大して取引されていますが市場全般でみると、景気の弱さやボラティリティ、不確実性が続いた場合には、迅速かつ強力な政策対応が取られることに慣れてしまっています。政府債務が膨らんだ現状では、そうした政策対応が取られる可能性は低くなっています。特に金融セクター以外では、大幅な格下げやデフォルト・サイクルは長らく発生しておらず、そのことで市場はやや独り善がりになっています。そのため、リスクの高い株式や債券市場でも最も景気変動に敏感な分野においては投資家は慎重であるべきだとPIMCOでは考えています。
問:インカム戦略の金利リスクのポジショニングについて教えてください。
アイバシン:金利が上昇する中、金利エクスポージャーを若干引き上げましたが、デュレーション(金利感応度)は3年台前半で、やや防御的な姿勢を維持しています。インカム戦略では、0年から8年までのポジションニングが可能で、ロー・デュレーション版においてはレンジは若干狭くなります。米国および世界でインフレと政府債務がより適切に制御された場合は、デュレーションを長くすることになります。PIMCOでは満期までの期間が短く、質の高い債券を選好しています。現時点で米国債市場では4%から4.5%の利回りがあり、質の高いスプレッド商品ではより高いリターンが得られる可能性があります。最近、2年および3年満期のボラティリティが高まったことで、利回り曲線全般で久しぶりにより多くの戦術的な取引機会がもたらされました。
問:証券化クレジット市場と社債市場において、どこに投資機会と脆弱性を見い出しているか教えてください。
アイバシン:クレジット市場全般で保守的なポジションを継続しており、特に証券化クレジット市場においては、質が高く、よりシニアのポジションを重視しています。現時点では、過度なリスクを取ることなく、6%から6.5%のレンジの利回りが可能です。そのためにPIMCOでは、直接的な企業クレジットのエクスポージャーではなく、政府系モーゲージ債(MBS)のリスクを着実に追加しています。これらの証券は、政府(ジニ―メイ)または政府系機関(ファニーメイ、フレディマック)の保証という恩恵があり、流動性が十分確保され、スプレッドは歴史的に見ても魅力的です。政府系MBSを取り巻く環境はより複雑でダイナミックであり、最も魅力的な投資機会を見極めることのできる経験豊富なアクティブ運用会社が有利になります。
また、様々なストラクチャード商品にも刺激的な投資機会を見い出しています。PIMCOのインカム戦略におけるこれらの商品のポジションが、他のほとんどのインカム志向の戦略と一線を画す要因になっていると考えています。非政府保証型住宅ローン・セクターでは、長年にわたる住宅価格の大幅な上昇の恩恵を受け、かつエクイティの比率が高いレガシーローンの多様なプールを引き続き重視しています。こうしたローンは、景気がハードランディングした場合でも強靭性(レジリエンス)を発揮すると考えています。また、自動車や学生ローンの質の高いセグメントなど、他の実物資産に裏付けられた特定商品のシニア・トランシェも選好しています。
企業クレジットについては、特に米国においてかなり慎重な姿勢を取っています。投資適格市場とハイイールド市場の格付けの高いセグメントのうち、意欲的な売り手が価格を引き下げ割安になったとみられる、厳選した銘柄やセクターに力を入れています。
シニア担保付ローンなど、さらなる悪化の影響を受けやすい一部の変動金利債務については特に慎重です。こうしたレバレッジ比率の高い借り手の多くは、収益が悪化する中で、金利の急上昇に圧迫さらされているのです。この分野に信用格付けの引き下げの波が、おそらく今年後半から押し寄せることになると予想しています。シニア・ローンの信用リスクは、投資家保護の役割を果たすコベナンツ(財務制限条項)の脆弱性によって、さらに増幅されています。過去数年間の歴史的な低金利環境において、投資資金はパブリックとプライベート両方の市場に流れ込みました。その結果、貸し手側では競争が激化し、過去最高水準のレバレッジを伴うコベナンツの緩い案件が組成されるようになりました。
問:さらなる悪化のリスクだけでなく、グローバルで機動的な戦略の潜在的な機会を踏まえ、インカム戦略での商業用不動産のポジショニングについて教えてください。
アイバシン:商業用不動産セクターの資産のパフォーマンスには、大きなばらつきが出るだろうと考えています。PIMCOの商業用不動産ローン担保証券(CMBS)市場へのエクスポージャーは、資本構成の上位に位置し、厳格なコベナンツを有する債務に焦点を当てていて、景気が悪化してもレジリエンスを発揮すると考えています。特筆すべきは、商業用不動産市場でメザニン(シニアより下位で、通常は無担保で株式に転換可能な債務)・エクスポージャーをほとんど保有していない点です。メザニン・トランシェはシニア・トランシェよりも先に損失を被るだけでなく、通常ごく少数の案件で構成されているため、市場が悪化する中で価格の大幅な下振れを引き起こす可能性があります。
問:エマージング市場をどうみていますか。また通貨のポジションングをどうみているか教えてください。
アイバシン:エマージング市場の資産は手堅い分散手段だと考えていますが、特に地政学的な不確実性に悩まされている欧州や中国などの地域でエクスポージャーを減らしました。エマージング市場への投資では、引き続き高格付けのソブリン債や準ソブリン債を中心としたポジションを取っています。また、高格付けのエマージング市場通貨ポジションの分散バスケットも維持しています。昨年、ほぼ全ての資産クラスが下落した際に、このうちのいくつかはパフォーマンスが好調でした。しかしながら、非米ドルのエクスポージャーの一部をシフトさせ、韓国、オーストラリア、北欧諸国への少額のエクスポージャーを含む、先進国市場の機会に振り向けました。米ドルは引き続き割高だとみています。FRBが我々の予想どおり引き締めサイクルの開始時より終了に近づいているとすれば、最近のドル安が続く可能性があると考えています。
問:投資家には現在、多くの選択肢があります。現金で寝かせておくこともその1つで、これは久しぶりのことです。現金で寝かせておくのではなく、PIMCOのインカム戦略を検討している投資家に一言お願いします。
アイバシン:現金利回りがここしばらくなかったほど高まったことは認識していますが、現金には価格上昇(キャピタルゲイン)の可能性がありません。PIMCOでは、やや長めの満期に魅力的な価値提案があると考えています。インカム戦略では、比較的低リスクでディフェンシブな市場の領域にとどまりながら、6%を超える潜在的な利回りが可能です。また、世界が予想以上に厳しい景気のハードランディングに直面し、金利が低下した場合には、魅力的なトータル・リターンが得られる可能性もあります。
ご留意事項
全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。外貨建てあるいは外国籍への証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的に政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。ジニーメイ(GNMA、連邦政府抵当金庫)が発行する米国政府機関系モーゲージ債は、米国政府による元利金支払の保証付き債券です。フレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)及びファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)が発行する債券は当該機関が期日通りの元利金支払いの保証をするものの、米国政府による保証はありません。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。不動産及び不動産に投資するポートフォリオの価値は、災害または収用による損失、地域経済または経済全般の状況の変化、需給、金利、固定資産税率、家賃に関する規制、都市計画法また運営費などにより変動します。デリバティブ商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、また流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。
プライベート・クレジットは、流動性リスクを伴う可能性のある非公開有価証券に投資する可能性があります。プライベート・クレジットへの投資ポートフォリオにはレバレッジが利用される場合があり、投資の損失のリスクを増加させる可能性のある投機的な投資行動を伴うことがあります。
特定の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が保証されるものではありません。個別の銘柄、および発行体の信用格付はそれらの信用度を示すため付与されており、一般的には、信用格付会社スタンダード・アンド・プアーズ、ムーディーズ、フィッチそれぞれ、最高格付のAAA、Aaa、AAAから最低格付D、C、Dまでの幅があります。
金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に適するという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。投資判断にあたっては、必要に応じて投資の専門家にご相談ください。
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