インカム戦略アップデート:現在の魅力的な利回り、今後のキャピタルゲインの可能性
要約
- 米国、英国、欧州、豪州の質の高い債券に投資価値が戻ってきたと考えています。しかし、株式市場と債券市場は、中央銀行の利下げ開始の時期やペースについて楽観的過ぎ、景気後退やインフレ再燃のリスクを過小評価しているようにみえます。
- PIMCOでは昨年、格付けが低く、景気変動に敏感な企業クレジットから、様々な景気シナリオで強靭性(レジリエンス)を発揮し、キャピタルゲインをもたらす可能性のある、質が高く流動性の高い証券化市場にシフトしました。
- インカム戦略の金利エクスポージャーは、昨年のピークから若干減らしました。特に力を入れているのが米物価連動国債(TIPS)のポジションを含む5年から10年のレンジの米国のデュレーションです。
- 現金利回りはピークに達した可能性があります。米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに転じると、キャピタルゲインによってインカム戦略のリターンがさらに押し上げられると同時に、現金利回りは低下する可能性があると考えています。
今日の債券市場は、近年最高の利回りによって、リスクを抑えながら株式並みのリターンをもたらす可能性があります。PIMCOインカム戦略の運用を、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンとともに担当しているダニエル・アイバシンが、債券ストラテジストのエステバン・ブルバノとともに、足元での高い利回りだけでなく、将来の様々な景気シナリオにおける強靭性(レジリエンス)を保持しつつ、キャピタルゲインの可能性を確保すべく、インカム戦略でどのようなポジションを取っているかをお伝えします。
問:2023年にインカム戦略は力強いパフォーマンスを見せましたが、その要因を教えてください。
アイバシン:昨年は債券にとって、課題はありながらも魅力的な一年でした。利回りは年初と同じ水準で終わりましたが、一年の間に大きく変動しました。このボラティリティは、デュレーション(金利感応度)を戦術的に調整し、グローバルで相対価値が魅力的な領域においてエクスポージャーを増やし、リターンの源泉を分散する機会となりました。相場上昇は急に起こりえます。現金からのシフトに消極的な投資家にとって2023年は、ボラティリティに耐える忍耐強さがあれば、魅力的な利回りに加え、追加リターンを得られる良い例になったと思います。
問:市場は先進国中央銀行の多くが利下げを開始すると予想し、景気減速を懸念しています。一方で、信用スプレッドは依然としてタイトで、マクロ経済見通しはより楽観的であることがうかがえます。米連邦準備制度理事会(FRB)の政策と米国経済に対するPIMCOの見通しを教えてください。
アイバシン:PIMCOの基本シナリオでは、インフレは緩和に向かっていると予想しるものの、粘着性のある賃金によって中央銀行の目標水準に達することができない可能性があります。インフレが鎮静化すれば、FRBをはじめとする多くの先進国の中央銀行が成長を下支えするため、年内に利下げに踏み切る可能性が高まりますが、中央銀行の利下げ開始の時期とペースについては、株式市場も債券市場も楽観的過ぎるとPIMCOでは考えています。
市場は米経済の軟着陸(ソフトランディング)が実現可能であることを示唆しているようです。一方で、信用スプレッドや株式のバリュエーションは、景気後退やインフレ再燃のリスクをごく低い確率でしか織り込んでいません。金融政策が経済全体に波及するまでには時間がかかり、また先進国全般の需給は伸び悩むとみられます。これは、多くの先進国で、市場が現在織り込んでいるよりも景気後退のリスクが高いことを示唆しているとPIMCOでは考えています。
問:株式や現金との対比での、債券のリターン見通しを教えてください。
アイバシン:PIMCOのインカム戦略をはじめとするインカム重視の債券戦略の見通しは、今後数年、かなり明るいと考えています。債券市場は、金融市場の他のセクターよりも予測が可能で、ボラティリティが低い傾向があります。歴史的に、投資開始時点の利回りは向こう3年から5年のリターンを予測するうえで指標となってきました。現在の環境下では、債券はリスクを抑えながら株式並みのリターンを生み出すことができると考えています。FRBが利下げに転じると、キャピタルゲインによってリターンが押し上げられ、昨年達成した高水準を上回る可能性すらあるとみています。現金利回りはピークに達した可能性があり、そのリターンは低下しつつあります。金利が低下すれば、債券のリターンが上昇すると同時に現金のリターンが低下する状況が生じる可能性があります。
問:PIMCOの経済見通しを踏まえた、ポートフォリオのポジショニングについて教えてください。
アイバシン:債券市場には、様々なマクロ経済のシナリオに対応できる潜在力があります。利回りは依然として15年ぶりの高水準近辺にあります。加えて、よりリスクが高いセクターのバリュエーションのほうが、より割高になっており、それほどリターンをあきらめずとも、質や強靭性がより高く、流動性のある債券にシフトすることが可能です。
景気のハードランディング(硬着陸)リスクへの対策として、PIMCOでは過去数四半期にわたり、投資家保護のコベナンツ(財務制限条項)が限定されている低格付けの景気変動に敏感な社債から、質が高く流動性のある証券化市場にシフトしてきました。流動性を高めることで機動的な動きができ、年内さらにはそれ以降に訪れるであろう興味深い投資機会を捉えることが可能になります。
強靭性の高い市場領域におけるグローバルなポジショニングが、PIMCOのインカム戦略を他のマルチセクター戦略や戦略的インカム債券戦略と差別化できる点だと考えています。
問:インカム・チームはデュレーションのポジショニングに非常に積極的です。投資価値が最も高いのは、具体的にイールドカーブのどの部分、どのグローバル市場でしょうか。
アイバシン:インカム戦略の金利エクスポージャーは、昨年のピークから若干減らしました。現在、過去のレンジの中間を下回っており、イールドカーブの真ん中、償還期限5年から10年を重視しています。イールドカーブの短期部分、償還期限が5年未満のエクスポージャーを小額保有していますが、最近縮小しました。中央銀行の利下げの時期やペースに関して楽観的過ぎる見方が強まる中で、償還期限がごく短い証券は過大評価されているように見えるためです。PIMCOでは、FRBが最終的に利下げに踏み切った際、そしてPIMCOの予想通りインフレがパンデミック前より高止まりした場合、長期債の利回りはさらに上昇し、価格を圧迫する可能性があるとみています。
中期債を選好するもう一つの理由は、一部の国で財政赤字の長期的な持続可能性が懸念される点で、特に懸念されるのが米国の連邦財政赤字です。米国の財政赤字の急拡大は国債の大量発行につながり、市場がそのリスクを吸収するため金利が上昇する可能性があります。PIMCOでは、豪州、欧州、英国など、米国以外の信用力の高い市場への金利エクスポージャーの分散を始めています。
米国のインフレ加速のリスクをヘッジするために、米物価連動国債(TIPS)のポジションを維持しています。
問:市場セクターに目を移すと、政府系モーゲージ債(MBS)への配分が現在、ポートフォリオの重要部分を占めています。今後の市場をどう見ているのか教えてください。
アイバシン:政府系MBSは歴史的に、金利ボラティリティが低い中で良好なパフォーマンスを発揮しています。現在、高いボラティリティや、銀行や買い入れを停止したFRBの需要が減少したことを受け、スプレッドが拡大しています。
PIMCOでは政府系MBSのバリュエーションは魅力的だと判断し着実に組入れを増やしており、かなりのポジションを占めています。先進国の中央銀行はごく緩慢なペースで金融緩和を進める可能性が高く、いずれ金利ボラティリティは低下し、より建設的な環境が整うと考えています。政府系MBSは通常、米政府が暗黙的または明示的に保証している流動性の高い市場であり、社債に比べて非常に魅力的なスプレッドで取引されています。とはいえ市場はかなり複雑で、銘柄選択が重要です。PIMCOでは、経験豊富な専門チームが政府系MBSを活発に取引することによりリターンの向上を目指しています。
問:他の市場セクターで、どこに価値を見出しているか教えてください。
アイバシン:非政府系MBSのエクスポージャーを継続的に追加しています。引き続き発行後年月を経たレガシー債を重視しています。多額の自己資本を積み上げていて借入比率が低く、住宅価格が持続的に上昇、もしくは安定的に推移しなくても、リターンを確保することが可能です。PIMCOは、米国のみならず英国や欧州の主なセクターで、この市場における唯一ではないにしても最大級のプレーヤーの一人です。
他の消費者ローンの資産担保証券で魅力的だとみているのが、質の高い自動車ローンや学生ローンのプールを担保とする証券です。また、他の質の高いストラクチャード商品、シニア担保証券(CLO)、分散型の商業用MBSのポジションも積極的に取っています。これらのセクターは、妥当な引受基準と分散の恩恵を受けられるだけでなく、実物資産の裏付けがあり、景気後退に陥った場合に追加的な緩衝材になると考えられます。
慎重な姿勢を要する分野の一つが、担保付シニアバンクローンです。これらのローンはほとんどが変動金利であり、借り手の多くは規模が小さく、負債比率が高い企業で、想定を上回る急激な債務返済コストの上昇に直面しています。短期金利が低下しなければ、クレジット市場のこのセクター全般が、絶対ベースでも相対ベースでも悪化し続けると予想しています。
問:金融セクターについては、どのように見ているのでしょうか。
アイバシン:金融システム上重要な大手米銀や世界の主要銀行は、資本に厚みがあります。ただ、経済の先行きが不透明な中、エクスポージャーを全体的に縮小し、銀行の劣後債務の組入れをここ数年で最低水準にまで削減しました。一方で、世界の主要銀行で資本構成の上位の質の高い債券については追加しています。一部の中小銀行が依然リスクに直面する可能性があることは認識していますが、金融セクターに大きな懸念材料があるとは予想していません。より強靭性の高い他の分野で割安な投資機会を見い出しています。
問:地政学リスクがある中で、インカム戦略のエマージング市場のポジションはどうなっていますか。
アイバシン:エマージング市場のエクスポージャーは引き続き控えめに維持し、政府系MBSやその他のストラクチャード商品など、より防御的なセクターを選好しています。ただ、エマージング債は依然として重要な分散手段となっています。ポジショニングでは、信用力が相対的に高く、強靭性のあるブラジルやメキシコのような市場、さらに東欧とアジアのスペシャル・シチュエーションに注目しています。
また、中南米諸国全般を含む高利回り通貨のエクスポージャーを、小額かつ分散した通貨バスケットの形で保有しており、2023年のリターンに大きく寄与しました。
問:債券の見通しについて、総括をお願いします。
アイバシン:2024年、それ以降の債券市場がもたらす投資機会に期待しています。歴史的に見ても債券の利回りとバリュエーションは、上場株式やその他のリスクの高い資産クラスと比べて、インフレ調整後でも十分魅力的です。長年にわたり低利回り、あるいは完全にマイナスの利回りが続いていましたが、米国、英国、欧州、豪州の質の高い債券に価値が戻ってきたと考えています。もうしばらく不安定な環境が続く可能性はありますが、こうしたボラティリティは、戦術的な投資をすることで、ここ数年で最高の投資機会をもたらすでしょう。PIMCOでは引き続きグローバルなプラットフォームを活用し、様々な経済環境で安定したインカム収入と、堅固なリスク調整後リターンを創出することを目指しています。
ご留意事項
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。政府系および非政府系モーゲージ担保証券は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。ジニーメイ(GNMA、連邦政府抵当金庫)が発行する米国政府機関系モーゲージ債は、米国政府による元利金支払の保証付き債券です。フレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)及びファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)が発行する債券は当該機関が期日通りの元利金支払いの保証をするものの、米国政府による保証はありません。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。ローン担保証券(CLO)は高水準のリスクを伴う場合があり、かかるリスクを理解できる適格投資家への販売が想定されています。投資家は投資した資金の一部、もしくは全部を失う可能性があります。また、投資家に対してキャッシュフローが配分されない期間が生じる可能性もあります。CLOへの投資は、デフォルト・リスク、流動性リスク、マネジメント・リスク、価格変動リスク、金利リスク、クレジット・リスク等を負うことになります。バンクローン は通常他の債券よりも換金性が低くなっており、バンクローンの早期償還は正確に予期することは難しく、一般市場状況および財政状況より影響を受ける場合があります。担保付きバンクローンの担保が実行されても借り手の債務を満たす保証はなく、また担保が実行される保証もありません。デリバティブ商品とモーゲージ関連商品を利用することにより、コストが発生する可能性があり、さらに流動性リスク、金利リスク、市場リスク、信用リスク、経営リスク、そして最も有利な時点でポジションを清算できないリスクなどが発生する可能性もあります。デリバティブ商品への投資により、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。特定の証券や種類の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が確保されるわけではありません。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。
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