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インカム戦略アップデート:レジリエンスとキャピタルゲインの可能性に備える

利回りが魅力的で、景気が悪化した場合にキャピタルゲインの可能性がある、質が高く流動性の高い債券に大きな価値を見出しています。

主要なポイント

  • PIMCOでは、足元の環境で底堅い利回りと柔軟性を提供するのみならず、景気後退局面でもレジリエンス(強靱性)を発揮し価格の上昇が期待できる、質と流動性が高く経済情勢に左右されにくい資産に注目しています。
  • 2021年以降に追加した金利エクスポージャーにより、景気後退局面で恩恵を受けると考えています。米国デュレーションの満期5年から10年のイールドカーブの中期部分を中心とし、長期部分はアンダーウエイトとしています。
  • より格付けが高い証券化商品のリスクを引き続き選好しています。具体的には、政府系モーゲージ債(MBS)、非政府系モーゲージ債、質の高い学生ローン、自動車ローン等です。
  • 過去数ヵ月、信用エクスポージャーを着実に縮小してきました。特に変動金利型の企業向けローンは、金利上昇と景気減速に対して脆弱であると考えています。

くの投資家は様子見の姿勢ですが、今こそ債券のエクスポージャーを増やす時だとPIMCOでは考えています。以下では、PIMCOインカム戦略を運用するダニエル・アイバシン、アルフレッド・ムラタ、ジョシュア・アンダーソンが債券ストラテジストのエステバン・ブルバノと共に、不確実な経済見通しについて論じ、現在の魅力的な債券利回りを確保するだけでなく、今後のレジリエンス(強靭性)とキャピタルゲインを求めて、どのようなポジションを取っているのかをご説明いたします。

問:インフレとその金利への影響が、過去2年間、市場ボラティリティを高める主な要因でした。米連邦準備制度理事会(FRB)の政策と経済に対するPIMCOの見通しを教えてください。

アイバシン:インフレ率は依然としてFRBの目標水準の2%を大きく上回っていますが、労働市場は減速しつつあるようです。最近の雇用者数、失業率、所得のデータは弱いものでした。10月の製造業、サービス業指数も予想を下回りました。現時点で、FRBは年内いっぱい利上げ休止を継続する可能性が高いとPIMCOではみています。とはいえ、先述の経済データは、前月分を大幅に修正するなどノイズが大きく、かなりの不確実性が残っています。一つの可能性として、来年もインフレが引き続き根強かった場合、FRBは来年、制限的な政策を継続するか、再利上げに踏み切る可能性があります。これに対し市場は、きわめて低い確率でしか再利上げを織り込んでいません。

金融引き締めが長期化すれば、2024年にかけてハードランディングの可能性が高まると考えられます。実際、インフレ率がFRBの目標水準に戻るには、ある程度経済が弱まる必要がありますが、パンデミック後の財政刺激の多くがインフレと旺盛な個人消費によって徐々に取り崩され、衰え始めるにつれて、経済が弱まると思われます。

歴史を振り返ると、中央銀行が現在のような高水準のインフレ率を引き下げ、かつハードランディグを回避した事例はあまり見当たりません。また、中東やウクライナでの戦争により惹起された地政学的な不確実性も考慮に入れる必要があります。現在は不確実性が極端に高い環境だと言えます。

問:ハードランディングのシナリオと、それがインカム戦略のポートフォリオのポジショニングに与える影響について、詳しく教えてください。

アイバシン:向こう12ヵ月から18ヵ月の間に景気が後退する確率は約50%とみています。市場価格から判断すると、市場コンセンサスはPIMCOの予想よりもやや楽観的だと考えています。とはいえ、景気後退の確率が五分五分だということは、景気後退を回避する可能性も50%あることを意味します。こうした見通しを踏まえ、スプレッドがタイト化した機会を利用して、ポートフォリオ内で景気に最も敏感な分野のエクスポージャーを減らし、信用力がより高く、レジリエンスのある資産へのアップグレードを目指しました。

現時点でPIMCOが重視しているのは、利回りが堅固でレジリエンスを有する、質が高く流動性のある市場分野です。ポートフォリオ全般で「リスクフリー」または低リスクの金利商品がその大役を担い、柔軟性を確保しています。市場のボラティリティが高まる中、今後12ヵ月間に魅力的なアルファ創出の機会を見込んでいるため、可能な限り機敏に動ける態勢を維持したいと考えています。

問:PIMCOの金利見通しと、それを踏まえたインカム戦略の運用について教えてください。

ムラタ:デュレーション、つまり金利エクスポージャーは魅力的で、今後数年はポートフォリオのリターンを高めるだろうと考えています。

過去2年間、デュレーションを長期化させてきました。2021年にはインカム戦略としては過去最低に近い1年弱でしたが、今年9月末時点で約4.7年になっています。デュレーションは信用スプレッドと負の相関関係を示すと予想しています。つまり、景気後退局面でその可能性がありますが、信用スプレッドが大幅に拡大した場合、デュレーションが上昇すると考えています。2022年はそうならず、信用スプレッドが拡大した際は、デュレーションのリスクも上昇しました。そのため、戦略に適度なデュレーションを保有するのが賢明だと考えています。ただ、ブルームバーク米国総合指数など幅広い債券を対象とするインデックスに比べると、デュレーションは引き続きアンダーウエイトにしています。

問:インカム戦略における米国のイールドカーブ全般と米国以外の金利市場のポジショニングについて、もう少し詳しく教えてください。

アンダーソン:当戦略のデュレーションの大半は引き続き米国で、イールドカーブの中期部分、満期5年から10年を保有しています。カーブの長期部分はアンダーウエイトを維持しています。

英国と欧州のデュレーションについては、これらの国でインフレの上振れリスクが見られることから、慎重な見方をしています。日本の金利については引き続きショートにしています。日銀が利上げに転じると、急騰するリスクがあると考えています。最後に、世界的には、住宅ローンの大半が変動金利であるカナダやオーストラリアなど、金利上昇の影響が経済全体に迅速に波及しやすい地域に注目しています。これらの国では、金利が急速に低下する可能性があるとみています。

問:今年は年間を通じて、政府系モーゲージ債(MBS)をインカム戦略に追加しています。このセクターで何があったのか、また今後予想されることを改めて教えてください。

ムラタ:政府系MBSセクターは、非常に魅力的な長期的価値を生み出す可能性があると考えています。政府系MBSは、米政府や政府系機関が発行・保証する、住宅ローンのプールを裏付けとする債券であり、このスプレッドは非常に魅力的な水準まで拡大しています。実は、これほど魅力的な価格水準を目にするのは、世界金融危機以来のことです。利回りが6.5%超で、質が高く流動性の高い政府系MBSは、下落リスクをヘッジしながら、魅力的なインカム水準の創出を目指すインカム戦略の投資先として適切だといえます。

現在の魅力的な価格は、市場の需給要因の悪化によるものだと考えています。2020年と2021年には、FRBが政府系MBSを積極的に買い入れ、多くの銀行も盛んに買い進めていました。2022年になると金利が急上昇し、FRBは量的引き締めを開始しました。FRBもほとんどの銀行も、政府系MBSの買い入れを停止しています。時間の経過と共に金利の低下が見られれば、FRBは政府系MBSの買い入れを再開する可能性が高く、銀行も再び買いに転じる可能性があり、PIMCOのポジションは上昇余地が拡大する可能性があると予想しています。

問:次に証券化クレジット・ポートフォリオの政府保証のない部分についてお聞きします。現在、どこに投資機会を見出しているか教えてください。

アンダーソン:非政府系MBSのレガシー債やその他の資産担保証券など、最も質の高い市場セグメントを引き続き重視しています。これらのセグメントは他の企業クレジットに比べ、バリュエーションがかなり魅力的です。一部のセクターでは、スプレッドがコロナ禍前に比べて1%から2%拡大しており、流動性の高いトリプルA格債の利回りは6%から8%となっています。

このセクターはPIMCOが選好するセクターの1つで、住宅ローンから高格付けの学生ローン、自動車ローンまで幅広い担保タイプの恩恵を受けており、投資家は企業クレジットよりも大幅に高いレジリエンスをもたらすクレジット市場セグメントに的を絞ることが可能です。

資金需要に比べて、資本供給は低い水準にとどまっています。地方銀行は総じて証券化資産を購入していません。資金調達が難しく、場合によっては資産を売却しています。それが利回りの上昇、スプレッドの拡大、投資機会の向上に寄与しています。

問:現在の企業クレジット市場をどう見ているのでしょうか。

アイバシン:ハードランディングに陥った場合でも堅調なパフォーマンスが予想される、強靭性のある市場分野を求めています。

ここ数ヵ月は、信用エクスポージャーを着実に減らしてきました。今年初め、地方銀行に関する不確実性が大きく、ハイイールド債のスプレッドが一時600bpsを越えた際には、エクスポージャーを追加していました。その後、同スプレッドが400bps台前半に落ち込んだ時に、エクスポージャーを減らしました。

変動利付社債を検討する際には投資家は慎重であるべきだとPIMCOは考えます。優先担保付ローン、一般に債務比率の高い中小企業向けのローンは、ほぼすべて変動金利です。投資家は当然ながら、金利リスクから守られていることを理由に変動金利商品を重視する傾向があります。言うまでもありませんが、問題はこうした企業がいま高くなった金利の支払いを余儀なくされ、大きなプレッシャーにさらされていることです。

そのため、優先担保付ローンのエクスポージャーは限定的にとどめています。そうした小規模のエクスポージャーの主流は、トリプルA格の有担保ローンのシニア部分です。トリプルA格は、格付け機関の基準とPIMCO独自の内部格付けの両方で定義しています。企業クレジットの結論としては、エクスポージャーを縮小する一方で、引き続き魅力的なスプレッドで取引されている質の高い市場分野は選好しています。

これがPIMCOのインカム戦略と、市場の他のインカム戦略との大きな違いであると考えています。来年はシニアローンのバリュエーションが調整される時期が来るかもしれません。インカム戦略は、質が高く流動性の高い分野から、こうした企業クレジット・セクター重視へと戦略を転換する可能性があります。

問:米国でハードランディングのリスクが高まり、世界の多くの地域でインフレ率が上昇している現状を踏まえ、エマージング市場についての考え方を教えてください。

ムラタ:地政学的リスクは慎重に見ていますが、エマージング市場は非常に規模が大きく多様な投資対象があり、魅力的な投資機会も存在します。例えば、多くのエマージング諸国は天然資源の生産に注力しており、インフレ率が上昇すれば恩恵を受けるとみられます。

また2021年には、先進国の中央銀行が総じて金利を据え置く中、多くのエマージング諸国の中央銀行は果敢に利上げを行いました。現在、先進国には利上げの余地が残っていますが、多くのエマージング諸国は利下げを検討しています。

全体として、エマージング市場には厳選された投資機会があるとみていますが、PIMCOにはこうした投資機会を発掘し、ポートフォリオへの組み入れを検討するための態勢が十分整っています。

問:投資家が債券単体への投資ではなく、アクティブ債券戦略を選択すべき理由を教えてください。

アイバシン:アクティブ債券戦略、特にグローバル投資機会が豊富な戦略には、債券単体の保有に比べて有利な点がいくつかあります。様々な地域、セクター、発行体から成る債券ポートフォリオを保有することで得られる分散効果だけでなく、運用会社の力量次第で、見通しの変化に応じて組み入れ銘柄を入れ替え、ポートフォリオの金利と信用リスクを調整できる点が挙げられます。このように、十分なリソースを備えたアクティブ運用会社は、債券単体では被りかねない下落リスクを抑えながら、パッシブ運用をアウトパフォームし、より高いリスク調整後リターンの獲得を目指すことができるのです。

問:2023年末から2024年初頭にかけて、投資家はどのような準備をすべきでしょうか。

アイバシン:経済の軌道と地政学的イベントは引き続き不確実性が高く、市場のボラティリティは大きくなると予想しています。こうした環境は、投資家には居心地が良くないかもしれませんが、アクティブ運用には刺激的な時期であると考えています。世界的に成長サイクルの同調性が低下する中で高まるボラティリティと、高頻度でデカップリングが可能な市場が相まって、アルファ(超過収益)を創出する大きな機会が生まれます。

過度な金利リスク、不必要なインフレ感応度、特にハードランディングのシナリオからお客様のポートフォリオを守ることができれば、幅広いグローバルな投資機会を踏まえ、潜在的なボラティリティを活かすことで魅力的なリターンを創出できると確信しています。

キャッシュレートは魅力的ですが、あくまで目先の利回りに過ぎません。来年、景気がハードランディングした場合、金利は低下する公算が高くなります。そうなればインカム戦略は、現在の魅力的な利回りだけでなく、この先、魅力的なキャピタルゲインを得られる可能性があるでしょう。



i 流動性は、通常の市場環境を基準とします。

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