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経済・市場コメント

私募クレジット投資、分散投資の余地

日経ヴェリタス Market Eye寄稿文(2023年8月20日付)ファイナンスにおける唯一のフリーランチは分散投資だろう。だが、私募クレジット投資において分散が十分に活用されているとはいえない。

プレキン・プロによれば、私募クレジットの運用資産残高は、2017年12月の6,310億ドルから1兆3,400億ドルと、わずか5年半で倍以上に増えた。ただ、投資の大半は企業向け融資に集中している。

PIMCOでも私募市場における企業向け融資に関して建設的に取り組んでいるが、企業向け融資以外への分散投資によりポートフォリオのリターンを高められると考える。また、PIMCOでは今後5年で私募クレジットのリターンの大半を占めるのは、住宅用・商業用不動産デットとスペシャルティ・ファイナンスだと見込んでいる。これが分散すべき理由の一つ目だ。

私募クレジットは、主に4つのセクターに分類できる。第1は住宅用不動産で、自営業者向けローンやリパフォーミング・ローン(利払い再開ローン)、つなぎ融資などがある。第2は商業用不動産で、トランジショナル・ローンや開発用資金、不動産投資信託(REIT)デットが含まれる。第3はスペシャルティ・ファイナンスだ。保険関連ローン、中小企業向け融資、訴訟費用ファイナンス等のニッチなセクターや、自動車ローン、航空機ファイナンス、設備ローン等の資産担保融資、クレジットカード債権、学生ローン等の消費者クレジットで構成される。そして第4は企業向け融資で、ダイレクト・レンディング、メザニン、ディストレス・デットなどがある。

分散すべきもう1つの理由は、リスクの削減である。資産担保、不動産、消費者向けローンのリスク要因は、企業向け融資のリスクとは異なる。バランスのとれた、分散されたポートフォリオを構築することで推定ボラティリティを抑えることができる。

加えて、最近の銀行セクターにおけるストレスの高まりを受けて、企業向け融資以外の私募クレジットに分散すべき根拠はさらに強まっている。米国でみると、これまで不動産融資やスペシャルティ・ファイナンスを担ってきたのは主に地方銀行である。22年末時点で、中小銀行が抱えるローンは、米国の銀行ローン残高全体の38%(4兆6,200億ドル)を占める。内訳は住宅用不動産ローン1兆4,500億ドル、商業用不動産ローン11兆2,500億ドル、商業・事業ローン7,820億ドル、クレジットカード・自動車ローン2,560億ドルなどとなっている。中小銀行がこれらのリスク資産を処分し、新規組成を限定するにつれて、投資家が魅力的な不動産やスペシャルティ・ファイナンス分野のローンに投資できる機会は増える。

しかし、私募デット・ファンドに預け入れられている資本の大半は、今後も企業向け融資への投資が中心となり、好機を生かしきれない可能性がある。プレキンによると22年末時点で私募クレジット業界全体の待機資金は5,690億ドルにのぼり、うち約3,710億ドル(65%)が企業向け融資に集中している。残りは業績不振や再建中の企業など特殊な状況下の企業への融資、不動産などで、このことからも分散投資がより魅力的だといえる。

世界金融危機以降、長く低金利が続き利回り追求の動きにつながった。私募クレジットは急成長し、引き受け基準は緩和された。その影響として、今後このセクターでは信用損失の増加が予想される。既存の資産全般が課題に直面するが、長期的には好機となる可能性もある。

私募クレジットは、企業向け融資がけん引して成長をとげてきたが、今後に向けて重要なのは、経済環境が厳しさを増す中、既存の私募市場における企業向け融資は投資家を失望させる可能性がある点だ。投資家は不動産やスペシャルティ・ファイナンス関連クレジットを含め、多様な優良私募クレジットを組み入れ、私募クレジット・ポートフォリオの分散を進め、分散投資の恩恵を享受するべきだろう。

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