概要
スワップ取引とは、二者がある一定期間にわたり将来のキャッシュ・ フローを交換する契約で、スワップ取引を用いることで様々なキャッ シュ・フローを交換することが可能です。 ただし、少なくとも約定時 点において二つのキャッシュ・フローの価値(現在価値)が等しいこ とが前提になります。
スワップ取引の代表的な例として「金利スワップ」や「通貨スワッ プ」が挙げられます
金利スワップ:(同じ通貨の)異なる金利のキャッシュ・フローを交換
通貨スワップ:異なる通貨のキャッシュ・フローを交換
金利スワップ
金利スワップの最も一般的な形態は、一方のカウンターパーティー が固定金利を支払い、もう一方が変動金利を支払う取引です。例え ば、図表2の取引例のようにカウンターパーティーAはカウンターパー ティーBに対し今後10年間にわたり年利2%の固定金利を3か月ごと に支払い、BはAに対して変動金利を同様に3か月ごとに支払うとい う取引を考えます。変動金利は毎支払い時の短期金利が適用され るため、将来時点の金利は変動します。
想定元本
固定金利、変動金利それぞれの金利レートおよび期間を取り決め る以外に必要なのが、「想定元本」の設定です。債券のクーポンが 債券額面に利率を乗じて決まるように、金利スワップにおいてもこ の想定元本に固定ないし変動金利を乗じて支払い額が決まります。 ただし、想定元本はその言葉が表すとおり想定上の元本であり、金 利支払いを算出する際の額面金額としてのみ参照され、実際に二者 間で元本がやりとりされるものではありません。
金利スワップのキャッシュ・フロー
想定元本が1億円、期間10年で3ヶ月おきにカウンターパーティーA が年率2%の固定金利を支払いカウンターパーティーBから変動金 利として3ヶ月の短期金利を受け取る金利スワップを組んだ場合の 3ヶ月毎のカウンターパーティーAのキャッシュ・フローを計算すると 図表3のようになります。
これを図で示すと図表4のようになります。
カウンターパーティーBのキャッシュ・フローはAと反対方向の流れ ですから、カウンターパーティーBでは受取額が固定金利で計算さ れる一方で、支払い額が毎回変動することになります。
スワップ金利とスワップの価値
通常、金利スワップを組んだ時点においては、双方のカウンターパー ティーにとって発生するキャッシュ・フローが同じ現在価値にならなけ ればならず、同時点で市場が織り込む将来の変動金利と現在価値が 等しくなるような固定金利を通常「スワップ金利」と呼びます。なお、 約定時点において金利スワップの価値は双方のカウンターパーティー にとって通常ゼロになります。
金利スワップの価値の変化
金利スワップを約定した後、市場の金利が変化すると、金利スワッ プの価値も変化していきます。先ほどの例と同様に、カウンターパー ティーAがBに対し、年率0.5%の固定金利を支払い、変動金利をB から受け取る1年間の金利スワップを想定します。金利スワップを約 定した後に、市場のスワップ金利が1%に上昇すれば、Aには利益が 発生します。一方、金利スワップの約定後に市場でスワップ金利が 0.3%に低下した場合には、Aには損失が発生します。従って、今後 金利の上昇を予想する場合、「固定金利払い・変動金利受け取り」 という金利スワップを組むことで、金利の上昇に伴って利益を得る ことができる一方、期待に反して市場で金利が低下すれば、損失を 被ることになります。
債券ポートフォリオにおける金利スワップの活用
債券保有の代替
金利スワップは債券投資の代替手段として利用することができま す。金利スワップ取引において固定金利を受け取ることは、固定利 付債券を保有するのと同様の効果があります。
例えばある投資家が手元にある1億円を投資する場合、債券価格 100円、固定利率3%(年率、利払いは半年毎)、償還期限3年の債 券に投資する投資家のキャッシュ・フローは図表5のようになります。
上記債券投資と同様の効果を金利スワップ取引によって実現する 場合には、まず、想定元本1億円、固定利率3%(年率、利払いは半 年毎)、期間3年の金利スワップを組みます。さらに、(当初の想定元 本の払込みが必要とされないため)手元に残った現金1億円を短期 運用(6か月円短期金利で運用)すれば、この2つのポジションの合 成キャッシュ・フローは図表6のようになります。
図表6のとおり、金利スワップを組んだ場合の投資家のキャッシュ・ フローは、変動金利の支払いと受取りのキャッシュ・フローが相殺さ れ、結果として現物債券を保有する場合と同様のキャッシュ・フローとな ります。
このように債券保有の代替として金利スワップを用いることで、現物 債券のみが利用可能な場合に比較して、より多様な債券ポートフォ リオ構築が可能となります。なぜなら、運用者がポジションをとりた いと思う年限に必ずしも流動性の高い現物債券が存在していると は限らず、また、現物債券が割高である場合には、代替として流動 性の高い金利スワップを用いるなどの選択肢が増え、運用者が意 図するポジションを確実かつ効率的にとっていくことができるから です。
金利リスクのヘッジ
また、金利スワップを用いることで、債券の金利リスクをヘッジする ことも可能です。例えば、保有する固定利付社債と等しい期間構造 を持つ、固定金利支払い・変動金利受取りの金利スワップを組むこ とで、その固定利付社債の金利リスクをヘッジすることが可能です。
例えば、債券価格100円、固定利率5%(年率、利払いは半年毎)、 償還期限3年の債券に投資し、同時に固定金利を支払って変動金 利を受取るスワップを組んだ場合の合成キャッシュ・フローは図表7 (次項)のようになります。
このように金利スワップを用いることで、常に各時点の変動金利を 受取り(=金利リスクをヘッジし)ながら、社債金利がスワップ金利 を上回る場合にはその差を収益として得られるポジションを構築す ることができます。
スプレッド戦略
債券ポートフォリオにおいては、金利スワップを用いたスプレッド(利 回り格差)戦略を組み入れることができます。例えば、スワップ金利 と国債利回りの差を「スワップ・スプレッド」と呼び、このスワップ・ス プレッドが拡大ないし縮小することを狙った戦略を構築することがで きます(図表8)。
スワップ・スプレッド= スワップ金利 - (同年限の) 国債利回り
以上のように金利スワップは、債券運用においても、債券保有の代 替として、またスプレッド戦略をとるためのツールとしてポートフォリ オに組み入れることができるほか、将来の金利水準をより精緻に分 析し、戦略をポートフォリオに表現するためのツールとして活用する ことができます。