2025年アジア太平洋地域市場の経済見通し:世界への影響と投資機会
経済状況が変化し、不確実性が高い環境において、アジア太平洋地域は課題に直面しています。と同時に、同地域への投資機会も生まれています。PIMCOのアジア運用チームが、最新の短期経済展望,「不確実性の中の、確かな投資機会」 の、中国、豪州、日本にとっての意味合いと、その他のアジア太平洋地域および世界への影響を検証しました。
中国:想定される経済戦略と波及効果
中国の経済環境は依然として課題が多く、成長およびインフレ・リスクは引き続き悪化傾向です。財政・信用支援の制約、高い実質金利、膨大な住宅在庫、製造業の過剰な生産能力という複合的な要因が、今後の見通しの不透明感を物語っています。
製造業の生産能力については、特に半導体やその他のテクノロジー分野で改善がみられますが、こうした進展に影を落としているのが、貿易関係の緊張感の強まりと、人口と生産性における長期的な伸び率の低下です。
中国の経済見通しは、アジア太平洋地域にとってもグローバル市場にとってもきわめて重要な意味をもちます。PIMCOの基本シナリオでは、中国の2025年の実質GDP成長率を4%~4.5%と予想し、2024年の5.0%から低下するとみています。この成長は、対GDP比1%~1.5%の財政刺激策によって下支えされると予想しています。さらに金融政策の段階的な緩和を予想しており、中国人民銀行は現在1.5%のリバース・レポ金利(RRP)を2025年中に約0.5%引き下げるだろうとみています。
中国政府は2024年の成長目標5%の堅持に努めましたが、中国の成長モデルは行き詰っています。不動産セクターの長引く低迷に加え、家計消費が弱いことから、製造業とインフラ投資を牽引役とする成長の持続可能性が疑問視されています。
アジア太平洋市場とグローバル市場への影響を評価するにあたり、PIMCOでは基本シナリオに加え、代替的な財政シナリオを3通り想定し、分析しました。直接的な刺激策をとらない場合、追加の財政刺激策をとる場合、製造業を重点的に強化する場合です。
第1のシナリオは、最も可能性が低く、直接的な刺激策をとらない場合で、このシナリオでは、中国のGDP成長率は顕著に低下し3%前後になると予想しています。これにより中国との緊密な貿易相手国である韓国やマレーシア、タイ、豪州は大きな打撃を受け、原油や金属などのコモディティ価格の下落圧力となるでしょう。対照的に、インドなどコモディティ輸出の依存度が低い国や、米国など地理的に遠い国への影響は小さいでしょう。
追加の財政刺激策を講じる第2のシナリオでは、状況が変わります。低所得世帯への移転に的を絞った対策をとれば、消費の押し上げにより最も高い経済乗数効果が生まれると考えられます。一方、幅広い世帯を対象とした移転策では、その効果は希薄になるでしょう。
消費と投資のどちらに重点を置くかという財政政策の性質によっても中国の輸入動向は変わります。投資重視の刺激策は、明確に輸入増加につながります。台湾やベトナムなど中国の近隣国は、中国の投資により依存しています。一方、ブラジルやニュージーランドなど農産物の輸出国は中国の消費の恩恵を受けています。ただ、中国の輸入の伸びは輸出の伸びを下回っており、中国経済が自立性を高めていることがうかがえます。引き続き中国が国内生産を進め、自立性を高める基調が続けば、従来の輸入と輸出の相関性は弱まる可能性があります。
第3のシナリオとして、中国が特定のセクターへの刺激策を通じて製造業を重点的に強化した場合、世界的な競争激化が予想されます。そうなれば競争力の劣る中国企業は大きな損失を被る(ひいては補助金の増額を余儀なくされる)事態に発展する可能性があります。同じ市場を中国と争っている国は、より大きな困難に直面することになるでしょう。
中国がどの路線をとるかは不透明ですが、中国の経済政策が世界の市場環境に重大な影響を与えることは間違いありません。PIMCOでは当面、中国のクレジットと人民元に対しては慎重な姿勢を取っています。一方、中国の現地通貨建て債については、イールドカーブの最近の大幅な低下に伴い中立の姿勢を継続しています。
豪州:緩やかな回復の見通し
豪州の経済見通しは、高金利と多額の税負担に喘いだ民間需要の回復が反映されています。2025年の豪州は、実質所得が増加し、金利が制約的な水準から低下し始め、GDP成長率は緩やかに改善すると予想しています。2024年の成長率は約1%で、主として公的需要に牽引されたもので、家計消費と企業投資は横ばいでした。
雇用については、2024年後半は堅調で、伸びの大半を公的部門が占めていました。2025年は、労働需給は穏やかで、失業率は4%台半ばに上昇するとみています。
インフレに関しては、2025年半ばにコア指数の上昇率が豪州準備銀行(中央銀行)の目標の2%~3%のレンジに戻ると予想しています。労働市場とインフレ両方の短期見通しが中央銀行の目標水準と一致する中で、中央銀行は2025年上半期中に中立水準に向けて金利を引き下げ始め、2025年中にキャッシュレートを1%引き下げるとPIMCOでは予想しています。
緩和サイクルの開始を控え、他の先進国に比べて相対的に低水準の財政赤字(ひいては低水準の債券発行)と、高水準の家計債務と税負担による消費の伸び悩みを考慮すると、豪州のデュレーションは他の多くの先進国に比べて相対的に魅力的だとみています。
豪州の債券セクター内では、質の高い債券市場のいくつかのセグメントに魅力的な機会があり、一部の領域ではトリプルA格、ダブルA格を維持しながら5%超の利回りを生み出しています。これは投資家にとっては大きなクレジット・リスクや流動性リスクをとることなく、インカム収入を確保できる投資機会になると考えています。
豪州の州政府債市場は、魅力的な実質所得と分散機能をもたらします。10年物の豪州連邦政府債に対するスプレッドは70bps~90bpsのレンジで、様々な経済シナリオに耐えうる強靭性(レジリエンス)をもたらします。
トリプルA格の証券化市場、とりわけ住宅ローン担保証券(MBS)市場は、スプレッドがキャッシュレートを90bps~120bps上回っており、より一層魅力的です。さらに、インフラおよび規制下の公益セクターにおいて、厳選された7年~10年の投資適格社債は、利回りが5.25%~6.0%で、堅調なマクロ経済トレンドの恩恵を受けています1。
日本:成長とインフレのバランス
日本の経済見通しは、改善の兆しを見せています。日銀は1月の金融政策決定会合で政策金利を0.5%に引き上げました。PIMCOでは2025年末までに0.75%への利上げを予想しています。さらなる政策金利の調整を予想する背景には、世界のマクロ経済環境が落ち着きを増したことがあります。2024年第3四半期に比べて米国の景気後退懸念が低下したことに加え、国内の賃金も底堅く推移しています。
日銀は政策正常化への決意を改めて表明しました。これは、経済活動と、インフレおよび賃金の見通しに基づいて金利が調整されることを意味します。国内のマクロ経済データは、日銀の予測に沿っており、2025年は賃金の底堅い伸びを見込んでいます。PIMCOでは、2025年の日本のGDP成長率を約1%と予想し、2024年のほぼゼロ成長から回復するとみています。インフレ率は日銀の目標水準の2%前後で推移すると予想しています。主に予想される実質賃金の伸びによるもので、これを受けて個人消費が拡大し、賃金に関連するインフレを加速させ、(なお緩やかながらも)上昇している財とサービスのコスト上昇の影響を相殺するとみています。
投資戦略の観点では、日本のデュレーションについては全般に中立とします。2025年の日銀の政策に対する市場の見方は妥当であり、相対バリューの投資機会がより魅力的だと考えています。日本のイールドカーブについては、日本国債の利回り曲線の5年~10年の領域を相対的に慎重に見ています。これは、2025年以降の追加利上げのリスクがバリュエーションに十分反映されていないこと、さらに日銀がこれらの国債の買い入れを段階的に減額すると見込まれていることが理由です。対照的に、20年から40年の長期債は魅力を増しています。過去の水準に比べて割安で、他のグローバルな債券との対比で価格が妥当であることがその理由です。
結論:アジア太平洋市場には引き続き投資機会があるものの、慎重なポートフォリオのポジショニングが必要
以上をまとめると、2025年のアジア太平洋地域の見通しは複雑な様相を呈しており、課題と投資機会の両方が見られます。PIMCOでは、中国は、年内に厳しい成長局面から抜け出すとは予想しておらず、域内の動向と経済に引き続き影響を与えると考えています。日本については、世界の金利と、債券利回りとイールドカーブ形成に影響を与える今後の日銀の政策決定に対して市場の感応度が高まっており、アクティブ運用が成否を分けると考えられます。豪州は他の先進国と足並みを揃え、金融政策の正常化に乗り出す見通しです。
このように地域と世界の不確実性が高まる中において、PIMCOは市場の構造的な非効率性と短期的なボラティリティを活用できるアクティブ投資家にとっての投資機会を、引き続きアジア太平洋地域の債券市場に見出しています。しかしながら、各国は国内の圧力と外的な影響の両方に対応していることから、投資家は慎重で柔軟性のあるポートフォリオ構築を優先すべきだと考えています。
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