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経済・市場コメント

FRBの独立性に挑むトランプ政権

トランプ大統領はパウエルFRB議長を解任する意向はないとコメントしましたが、トランプ政権はFRBの独立性を試しているようです。

米経済へのリスクが山積するなか、トランプ大統領は先週、FRBの政策とパウエルFRB議長への批判について改めて発言しました。トランプ大統領はパウエル議長の短期金利の引き下げが「遅過ぎ」、「自分が本気で望めば、あっという間に追い出せる」と述べ、さらに国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長は、パウエル議長を交代させるかどうか大統領は「精査する」と示唆しました。月曜日(21日)に、トランプ大統領はパウエル議長を「最大の敗者」と呼び、「今すぐ」利下げする必要があるとツイートしましたが、火曜(22日)午後になると、報道陣に対しパウエル議長を解任する意図はないと述べました。

トランプ大統領がパウエル議長批判を繰り広げてからの数日間は、金融政策の独立性に対する政治圧力と挑戦をめぐる懸念を背景に、米国の株式、米国債、米ドルが急落し、トリプル安となりました。

一方、パウエル議長は、議長の任期が満了する2026年5月までは、議長、理事会を退任する意志がないことを明らかにしています。PIMCOでは、トランプ政権からの圧力によりFRBの金融政策が揺らいだり、パウエル議長が解任されることはないとみています。実務的な観点からも、仮にパウエル議長を解任できたとして、トランプ大統領が享受できるメリットは不透明です。とはいえ、解任について議論されている事実そのものが懸念材料であり、今後の最高裁判決はFRBの独立性に重要な意味をもつと考えられます。FRBの制度上の地位が変わる可能性がわずかでもあれば、米国の資本市場と米ドルに重大な影響を及ぼす可能性があります。

トランプ大統領はパウエル議長を解任できるのか?最高裁の判決に注目

FRBの独立性は比較的新しい概念です。1970年代に当時のニクソン大統領が、インフレが猛威をふるうさなかにアーサー・バーンズ議長に低金利を維持するよう圧力をかけたことから、この概念は強化されました。この時のインフレは結局、米経済を長く苦しめることになりました。それ以来、FRBの独立性は神聖なものとされ、少なくとも暗黙のうちに市場関係者にとって、米ドルの準備通貨としての地位や「質への逃避先」としての米国債の重要性を支える考え方となっています。

これまでに大統領に解任されたFRB議長は一人も存在しません。金融政策への不満からパウエル議長を解任できる法的権限は、そもそもトランプ大統領にはないとFRBは言明しています。FRB高官は、連邦準備制度を創設した1913年の法律を引用し、パウエル議長を含む7名の理事は「正当な理由」がある場合にのみ解任できるとしています。「正当な理由」は詐欺や怠慢などの不正行為を指すと一般に解釈されています。パウエル議長自身も先週、ニューヨーク経済クラブの講演で「われわれは、如何なる政治圧力にも影響を受けない。……われわれの独立性は法律の問題である」と述べ、同様の見方を示しました。

トランプ大統領が22日にパウエル議長を解任する意図はないと発言したとはいえ、トランプ政権はFRBの独立性を支えている法律に挑んでいるように見えます。最近さまざまな独立機関で行われている解任人事は、長年の先例の合憲性に挑戦することに狙いがあるように思えます。

実際、トランプ大統領はこれまでに連邦取引委員会(FTC)や全米労働関係委員会(NLRB)など、独立機関の委員長を何人か解任しています。こうした解任人事は、ワシントンの慣例のみならず法律を試すものだと言えます。法学者の多くは、これら委員長の地位は議会によって守られ、1935年の最高裁の判例、ハンフリー遺言執行訴訟の最高裁の判例によって支持されていると主張しています。トランプ大統領によるNLRB委員の解任訴訟は、最高裁まで上告され、6月下旬までに判決が下される可能性がありますが、ハンフリー遺言執行の判例が覆されるか、支持されるかどちらかです。仮に覆されるとすれば、政策の不同意を含め理由の如何を問わず、FRB議長ばかりか理事会のメンバーを誰でも解任できる可能性が大統領に開かれることになります。

法学者たちは、最高裁はより限定的に判断し、FRB及びFRBが独立して金融政策を遂行する権限については除外するシナリオがあると提言しています。最高裁は、労働問題に裁定を下す委員は事実上「法を執行」しているため、行政機関の意図に基づいて雇われているとし、NLRBの解任人事を容認する可能性があります。しかし一方で、FRBの役割は特に金融政策の決定において、他の独立連邦機関とはまったく異なるとの判断を示す可能性があります。通貨の価値を規制する権限は議会にあり、FRBが金融政策の目標を遂行することは、行政機能よりも立法機能に近いことを示唆する可能性があります。

最高裁のなかで最も保守的なアリート判事は2023年、FRBは他の独立機関と一線を画し異なると述べ、「独自の歴史的な背景をもつ唯一無二の機関」と呼んでいます。FRBが除外されるかどうかは、アリート判事が他の保守派の判事を説得できるかどうかにかかっていると言えるかもしれません。

皮肉なことにホワイトハウスもFRBの金融政策の役割は別格であることを、つい最近の2月に肯定しています。包括的な大統領令で、FRBを含む金融規制機関をより直接的な大統領の管理下に置きましたが、FRBの金利の決定権についてはこの大統領令から除外しています。

パウエル議長を解任できたとして、トランプ政権が得るものは?

大統領が(意のままに)FRB議長や理事を解任できるとすれば、その後、米国のみならず世界の資本市場に大混乱を引き起こすことになるでしょう。これは政策金利の引き下げで、どんな短期的メリットが得られるとしても、それに見合わない事態です。長年にわたり米国のインフレ期待を固定し、米国の資本市場を安全な価値の保管先とみなす投資家の認識を支えてきたのは、政治的影響を受けないFRBの独立性です。その独立性があればこそ、FRBは物価の安定と雇用の最大化という長期目標を達成するために、痛みを伴う可能性のある調整ができるのです。FRB高官を更迭する権限を大統領が実際に行使するかどうかは別にして、この独立性が失われれば、世界における米国債の特別な地位もまた毀損されることになり、債券利回りを圧迫し、米ドル安を招くことになるでしょう。

さらに、金融政策を直接変更するには、大統領は議長だけでなく、何人かのFRB高官を解任する必要があります。金融政策を決定するのは、連邦公開市場委員会(FOMC)であり、7名のFRB理事、ニューヨーク連銀総裁、輪番制による4名の地区連銀総裁で構成されています。パウエル議長はFOMCの議長で、ジョン・ウィリアム、ニューヨーク連銀総裁が副議長を務めています。

利下げまたは利上げは、全12名のFOMC委員の過半数で決定されます。パウエル議長がFOMC議長の地位から降格もしくは解任された場合、FOMCはただちに次期議長を投票で決定します。ウィリアム氏が選出される可能性はありますが、保証はありません。またFOMCが次期議長に誰を選ぶにせよ、その議長が速やかな利下げを主張する保証もありません。仮に、トランプ大統領自身が2020年に任命したクリス・ウォラー理事が議長に選ばれた場合でも同じです。ウォラー氏は、より伝統的な金融政策の考え方の持ち主であるようにみえます。

さらに、FRB議長は上院50票以上で承認される必要がありますが、一部の共和党上院議員はFRBの独立性を支持しているとみられます。前多数派院内総務のミッチ・マコネル上院議員(共和・ケンタッキー州選出)をはじめ、数人の共和党上院議員が連携し、パウエル議長の後任候補や理事候補の承認を拒む可能性があります。

トランプ政権の利下げの狙いの1つが実体経済のためだとしても、パウエル議長の解任はその助けではなく、妨げになりうる点に留意すべきです。パウエル議長の解任が取り沙汰されて以来、住宅ローン金利の基準にもなる10年物米国債の利回りが急騰していることをみればわかるはずです。

発言と現実

以前から指摘してきたことですが、トランプ大統領による規範と法律への挑戦は、ある意味、開き直りと見受けられます。ホワイトハウスは、挑戦の一部が覆されると予想しながらも、一部については法的および政治的な挑戦を乗り越えられると考えているということです。そもそもホワイトハウスの一部は、ハンフリー遺言執行の決定に懐疑的で、FRBの独立性に影響を与える可能性がある、この決定を試すことに関心があると言われています。

とはいえ、トランプ大統領にとってパウエル議長は、政治的に重要な役割を担っていると思われます。たとえば市場の急落時に、トランプ政権の政策ではなくパウエル議長を責めやすくなります。この点を鑑みると、パウエル議長は議長であってこそ、トランプ大統領にとってはるかに役立つことになりそうです。また、トランプ政権は、FRBの利上げが遅れたことがバイデン政権でのインフレ率上昇、さらに価格上昇による景気後退の要因の一つになったとの見方をよく理解しています。

結論

解任に関する議論やパウエル議長への圧力が増していますが、トランプ大統領がパウエル議長を解任する可能性は低いと考えています。トランプ大統領自身が22日午後に解任する意図はないと言明しています。また、最高裁が独立機関としてのFRBの特別の地位には手をつけないと信じるに足る、十分な理由があります。最高裁が曖昧さを残すとしても、法廷闘争や市場(特に債券市場)の痛みをトランプ政権が選択する価値があるとは思えません。

とはいえ、投資家がこうしたことを議論していることが問題の兆候です。パウエル氏の議長の任期が切れるのは2026年5月(理事会のメンバーとしての任期は2028年1月)のため、1年後にはトランプ大統領がFRBをトップから作り変えることができます。大統領が現職のFRB議長や理事を解任できるかもしれないという、ごくわずかな可能性ですら市場を揺るがしています。今後も、重要な金融政策の規範が変わらないとしても、ドル建てで投資をしている投資家の心配と悩みを深め、米国資産からの分散を促進する可能性があると言えるでしょう。

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