景気サイクル後期における運用戦略
要約
- PIMCOでは、景気循環に左右されにくく信用力の高いセクターや企業を選好しています。具体的には、ヘルスケアや医薬品など、景気サイクル後期の動きに強いとみられるセクターを重視しています。半導体関連企業も引き続き選好しています。また、旅行や娯楽セクターの中で耐性のある債券は、経済活動再開が続いていることから上昇が見込めるでしょう。
- 景気サイクル後期の、特に世界が戦時下の物価上昇圧力に直面している環境下では、コモディティや厳選された通貨を含むインフレ・リスク軽減戦略が、マルチアセット・ポートフォリオには不可欠です。
- 金融引き締め継続の見通しにより、債券市場の価値が高まっていますが、他の逆風もあり、PIMCOでは国債、特に先進国の国債については慎重な姿勢を取る方針です。また現金などの資産は、市場の歪みを活用するための待機資金となると考えます。
投資家は現在、景気サイクル後期にある世界経済の舵取りをしています。基礎的な成長は堅調に見えますが、下振れリスクに対する脆弱性が増しており、多くの成長率予想が下方修正されています。既に高水準にあるインフレ率はさらに上昇しており、中央銀行が物価高騰の抑制を急ぐとして、市場は急激な金融引き締めを織り込んでいます。
マクロおよび市場の幅広い要因を網羅するデータに基づくPIMCOの景気サイクル指標は、現在、98%の確率で世界経済が景気拡大期の後半にあることを示しています。しかし、景気拡大後期の環境にあるとはいえ、PIMCOの基本シナリオの見通しには、2022年中の世界的な景気後退は含まれていません。ただ、欧州をはじめとする一部の地域には、重大な下振れリスクがあることは認識しています(詳しくは、最新の短期経済展望「『反』適温経済のなかで」をご覧ください)。家計や企業のバランスシートは概して健全で、サービスの繰延需要はいまだ充足されておらず、インフラやエネルギーへの継続的な投資が必要です。しかしながら、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする多くの中央銀行は、目下の最優先課題がインフレ抑制であることを明確にしています。それに伴い金融環境は引き締まり、市場はこれまで慣れ親しんだ超緩和的な状況から脱しつつあります。
実体経済では、労働力から半導体まで幅広い分野で供給不足が続いています。2022年中に引き続き改善が期待されるものの、ウクライナ戦争でサプライチェーンはさらに混乱し、コモディティ価格の高騰を招いています。インフレの高騰が今後も中央銀行の利上げを促し、それにより資産クラス間および資産クラス内の差別化をもたらすと予想しています。
金融資産については、歴史的に見て、景気サイクル後期はデュレーションやクレジットよりも株式やコモディティが有利ですが、全体的にリターンは抑えられ、ボラティリティが高まる傾向があります。
マルチアセット・ポートフォリオにおける主要テーマ
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PIMCOのマルチアセット・ポートフォリオでは、典型的な景気サイクル後半の運用指針に従っています。この環境下で予想されるリターンの低下とボラティリティの上昇を踏まえて、全体のベータのエクスポージャーを減らしています。資産間比較の観点では、デュレーションおよび企業クレジットよりも株式を選好しています。資産クラス内では、信用力がより高いエクスポージャーを重視しています。最後に、コモディティや特定の通貨など、インフレ高騰の恩恵を受け、ポートフォリオの分散に役立つ資産のエクスポージャーを保持します。
株式
過去1年は、堅調な経済成長とリスク選好を背景に、割安で景気循環に連動した株式が、力強いリターンをもたらしました。しかしながら今後は、景気サイクル後期の動きに強い、景気循環に左右されにくく信用力の高いセクターや企業を選好します。PIMCOが求めているのは、キャッシュフロー、収益性、売上高が安定し、景気が不透明な時期を乗り切ることのできる企業です。
また、ヘルスケアや医薬品など、前述の特性をもつセクターへ資産配分を変更しています。こうしたセクターの企業は、金利感応度が低く、投入コストの上昇、財政刺激策の解除、パンデミックに伴う需要の減退などの影響を受けにくくなっています。また半導体メーカーを引き続き選好しています。歴史的に景気循環との連動性がかなり高かった半導体メーカーですが、バランスシートが改善され、長期的に強力な追い風の恩恵を受けると予想され、次のサイクルでは全体の経済成長の影響を受けにくいと考えられます。
株式をファクター別に評価すると、景気サイクルの現段階では歴史的に優良株がリスク調整後で最高のリターンをもたらす一方、バリュー株や小型株は出遅れるのが一般的です(図表1を参照)。
ポートフォリオでは、成長機会を断念することなく、優良銘柄をオーバーウエイトとすることが可能です。しかしながら投資家は、全体の成長率ばかりでなく、収益拡大の質も重視すべきでしょう。これにより、真のキャッシュ創出型企業と、1株当たり利益(EPS)の成長が単なる会計処理に過ぎない企業を峻別することができます。
PIMCOのポートフォリオでは、まず定量的なシステマチック・スクリーニングを行い、キャッシュ創出に応じて調整した評価額に基づいて企業を選定します。これにより、質の高い企業だけでなく、高い成長性があり、調整後の株価収益率で割安に取引されている企業を発掘することができるのです。PIMCOではさらに次の3つの基準を使用しています。1つ目は低水準の債務。バランスシートがクリーンであれば柔軟性が増すため、不確実な環境を乗り切るのに役立つはずです。2つ目は高い水準で安定した利幅。利幅を維持・拡大してきた実績ある企業は、景気サイクルの難しい局面でも、好業績を再現できる傾向があります。3つ目が、高水準のフリーキャッシュフロー。キャッシュを生み出すことのできる企業は、それを配当や自社株の買い戻し、あるいは新規投資に回して成長のエンジンにすることができます。
次にPIMCOではより定性面に着目します。業界動向の良し悪し、PIMCOのマクロおよびテーマ別の展望に合致するか、危険な兆候がないかどうかの観点から企業を評価します。株式をセクター別に見ると、セクター内の企業の平均クオリティ・スコアに大きな幅があり、マクロ、セクター、企業の各レベルでの分析の重要性が浮き彫りになります(図表2を参照)。この枠組みは、投資家が株式配分における質を高めて、景気サイクル後期の環境を乗り切るのに役立つと考えています。
クレジットと金利
クレジット市場には厳選された機会を見出しており、堅固なバランスシートと健全な流動性の恩恵を享受できる企業に注目しています。最近のスプレッド拡大により、デフォルトの可能性が低いとみられる金融などのセクターで価値が生まれています。一方、旅行・娯楽などのセクターで耐性のある債券は、経済活動再開の動きが続いているため上向いていますが、パンデミック前の水準とはまだ開きがあります。
市場に急激な金融引き締めが織り込まれたことで、債券市場の価値は高まりましたが、同資産クラスは引き続き、高インフレ、堅調な成長、中央銀行のバランスシート縮小開始に伴う国債供給の増加という逆風に直面しています。しかしながら、債券は長らく、マルチアセット・ポートフォリオにおける分散手段として重要な役割を担っており、金利の上昇で、今後、そうした分散機能は一段と高まるものとみられます。先進国市場のデュレーションを小幅アンダーウエイトとし、エマージング市場の相対バリュー取引を優先しています。エマージング市場では、利上げサイクルで先行する国と、遅れた国との間のばらつきが大きいと見ています。ただ、景気減速の兆候がさらに強まれば、デュレーションが魅力を増すと見ています。
実物資産と通貨
景気サイクル後期の環境、特に世界が戦時下の物価上昇圧力に直面する現在のような状況では、インフレ・リスクの軽減が、マルチアセット・ポートフォリオにとってもう1つの不可欠な要素になります。PIMCOはインフレ・リスク軽減において複数の手段を選好しており、ポートフォリオでは、コモディティ連動型通貨の分散バスケットをロングとしている他、コモディティなどの実物資産も保有しています。
エマージング市場コモディティ連動型通貨は、10年来の高水準のキャリーを提供し、かつ上昇の兆しがあることから、特に魅力的だとみています。例えば、ブルームバーグのデータによると、厳選したエマージング通貨バスケットの現在の利回りは6.5%強です(図表3を参照)。金利上昇局面で不利になりがちな株式や債券とは異なり、一部のエマージング通貨は金利上昇が追い風になる可能性があります。これは、多くのエマージング諸国が先進国に先駆けて利上げサイクルを開始したためで、先進国の金利が上昇しても、魅力的な利回りの優位性を維持できるとみられます。魅力的な利回り特性に加えて、多くのエマージング通貨のバリュエーションは過去10年で最も魅力的な水準にあります。例えば、PIMCOが保有している通貨の中には、社内の評価モデルによると、適正価値に比べて50%も割安な水準で取引されているものがあります。
ウクライナ戦争により、コモディティ市場に大規模な供給ショックが起きています。制裁措置等でロシアとの取引が制限される中、輸入国はエネルギー、金属、農産物の代替調達先を探す必要があります。制裁措置はしばらく続く見通しで、コモディティの主要輸出国は当分の間、安定的な需要と価格上昇の恩恵を受ける立場にあり、その通貨も恩恵を受けるはずだとPIMCOでは見ています。
PIMCOのマルチアセット・ポートフォリオに組み入れている通貨の多くは、エマージング市場および先進国市場におけるコモディティの主要輸出国の通貨であり、各国はロシア産原材料の代替供給源として重要な役割を果たしています(図表4を参照)。例えば、石油、金属、鉄鉱石、ソフトコモディティを組み合わせて輸出している中南米諸国の通貨を選好しています。
また、ウクライナ紛争を契機に、エネルギーの自給自足も優先課題になり、世界のグリーンエネルギーへの移行がさらに加速されています。ロシアは世界の石油供給の14%を占め、天然ガスの生産量でも世界第2位です。ロシアは最早、信頼できる供給国とはみなされず、天然ガスの40%をロシアから輸入している欧州は、他のエネルギー供給先に軸足を移そうとしていますが、調達先を見つけるのは容易ではありません。世界的に設備投資が遅れ、エネルギーや工業用品の在庫が品薄になっており、市場の構造的な赤字が長期化する可能性があります。
こうした動向を踏まえると、コモディティ価格は当面の間、高止まりすると見られることから、マルチアセット・ポートフォリオにおいては、石油などのコモディティに対する戦術的なエクスポージャーを追加しています。今回の地政学的紛争によって、長期的には、グリーンエネルギーへの期待は高まるばかりです。PIMCOでは引き続き、長期的にグリーンエネルギーへの移行で恩恵を受けるセクターへの投資で、多くの魅力的な機会を見い出しています。
投資への意味合い
PIMCOでは、景気は拡大局面の後期にあると考えており、それに従って投資を行っています。景気サイクルの転換点を予想することは常に難しいものですが、投資家がマルチアセット・ポートフォリオを構築する上で、参考になる運用指針があると考えています。景気が減速し、金融状況が引き締まり、インフレ率が上昇し、地政学的緊張が高まる世界情勢の中で、投資家は株式・債券市場の両方で、今後の難路に耐えうるビジネスモデルを有する質の高い企業に注目する必要があります。また、コモディティやエマージング通貨など、さらなる物価上昇圧力を緩和できる資産への投資も模索すべきです。最後に、質への逃避が発生した際にポートフォリオの分散機能を果たすデュレーションなどの資産や、市場の歪みを活用するための待機資金としてのキャッシュなどのエクスポージャーを維持することによって、さらなる市場の変動に備えることができます。このような景気サイクル後期の運用指針では、慎重なポートフォリオ構築と、リスクや機会の変化に対応した機動的な運用が求められます。
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ご留意事項
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が市場流動性の低下や価格変動制の上昇をもたらす可能性があります。債券への投資では換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。インフレ連動国債(TIPS)は、米国政府が発行する物価連動債(ILB)です。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴い、また、発行体の信用力に対する市場の認識に応じてその価格は変動する可能性があります。また、一般的には政府または民間保証機関による何らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。高利回りで低格付けの証券はより高格付けの証券よりも高いリスクを伴います。また、それらへ投資しているポートフォリオは投資していないポートフォリオに比べてより高いクレジット・リスクと流動性リスクを伴う場合があります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。コモディティは市場、政治、規制、自然などの条件により高まるリスクを伴い、全ての投資家に適しているとは限りません。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。
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