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経済・市場コメント

パブリック(公募)/プライベート(私募)両方のクレジット市場の現状:流動性、リスク、潜在的なリターン

パブリック債券市場とプライベートクレジット市場を比較する際には、流動性、透明性、信用の質、リスク・プレミアム、機会費用に関連するファクターを比較検討する必要があります。

要約

  • パブリック市場には超過リターン(アルファ)を獲得する潜在的に魅力的な投資機会が存在します。市場の構造的な非効率性と、各国の経済成長とインフレの経路の違いに由来するマクロ経済のボラティリティが、投資機会をもたらします。パブリック債券市場の流動性は、上場投資信託(ETF)やポートフォリオ・トレーディングなどのイノベーションにも支えられて、底堅さを維持しています。
  • プライベート市場などを対象とする相対的に流動性が低い投資においては、パブリック債券市場におけるアクティブ運用から期待される潜在的なアルファの喪失、ポートフォリオのリバランスが困難であることに伴う機会費用、想定外の資金ニーズ発生時における資金不足に起因する潜在的なコストの代償として、投資家は超過プレミアムを確保する必要があります。PIMCOの推計によると、約200bpの超過プレミアムが必要になります。
  • クレジット市場では、パブリック、プライベートのいずれの領域においても、流動性プレミアムが縮小しています。特に信用力が低いセグメントでは、経済成長の減速と金利の上昇を背景に、脆弱性が高まっています。パブリック市場には、比較的魅力の高いセクターに軸足を移す機会が存在しています。
  • 資産の選択が重要になります。金利水準が世界的に大きく再評価されたことを受けて、現在、信用力と流動性が高いパブリック債券市場には大きなバリューが見受けられ、魅力的な利回りとリスク資産に対するヘッジ効果が期待されています。また、プライベート市場の中にも、資産担保融資やオポチュニスティック・ファイナンスなど、取引量が少ない一部のセグメントにおいて、大きなバリューが存在しています。

クレジット市場では、パブリック、プライベートのいずれの領域においても、地域、セクター、個別銘柄を慎重に分析することによって浮かび上がる、潜在的に魅力的な投資機会が存在しています。PIMCOは常時、両方の領域に積極的に参加するなかで、重要な構造上の違いと相対価値の重要な差別化要因を確認しています。

両者を比較する際に重要なコンセプトとして、流動性とアルファが挙げられます。流動性とは、価格を大きく変動させることなく、金融資産をどの程度容易に売買できるのかを示す指標です。一方、アルファとは、市場全体のパフォーマンスを上回る超過収益を獲得する機会を指します。

通常、パブリック債券市場においては、投資家はリアルタイムの流動性を享受します。流動性の恩恵として、流動性プレミアムとリスク・プレミアムが縮小した分野から魅力が残存する分野にシフトすること、すなわち、満期保有のアプローチとは異なり、アルファをアクティブに追求することが可能になります。加えて、マクロ経済のボラティリティや地政学リスクが高まり、各国の経済成長とインフレの経路が分岐する足元の環境において、パブリック市場ではアルファ獲得の機が熟しています。

一方、プライベート市場に参加する投資家は、流動性プレミアムを長期にわたって獲得するために、短期的な流動性を犠牲にします。また、プライベート市場の一部のセグメントにおいては、スポンサーとレンダー(貸し手)の関係に基づく投資家有利な契約条件を確保することや、資産カバレッジを通じて支払優先順位を構造的に向上させることによって、信用力が悪化した時のダウンサイド・リスクを限定することも可能です。

PIMCOは両方の市場において大量の取引フローを見ているなかで、プライベート市場の多くの領域と、パブリック市場の一部の領域において、流動性プレミアムが以前ほど魅力的ではない水準にまで縮小している状況を確認しています。また、伝統的にプライベート・クレジット市場のレンダーを保護する役割を果たしてきたコベナンツにも、規律が緩む傾向が見られます。

投資家は資産配分を決定する際に、近年のプライベートとパブリックの債券市場において生じたバリュエーションと市場構造の変化についても、考慮するべきでしょう。

パブリック・クレジット市場における流動性の計測

流動性は、取引可能な買い手と売り手の数、取引の金額と頻度、情報の透明性と入手可能性によって決まります。流動性が高い市場では、資産の本源的な価値がより適切に反映され、その価格を発見する機能が促進されます。流動性の恩恵によって資産の売買が容易になることから、投資家は新しい情報に対して迅速に反応できるようになります。その結果、新しい情報やバリュエーションの変化を踏まえたアクティブな調整が可能になり、アルファ獲得の機会が充実することにもつながります。

一部の伝統的な指標において、パブリック債券市場の流動性低下が示唆されていることは事実です。たとえば、歴史的にマーケット・メーカーとしての役割を果たしてきたプライマリー・ディーラーが抱えている債券の在庫は減少しています。最近では、プライマリー・ディーラーの在庫減少を指摘するなどして、パブリック社債市場における流動性が(特に最大手の発行体以外では)消滅したと主張する声を耳にすることもあります。

しかし、PIMCOでは、パブリック債券市場の流動性とディーラーの在庫水準を同一視するのは適切ではないと考えています。その理由として、上場投資信託(EFT)や「all-to-allトレーディング(プライマリー・ディーラーを介さずに市場参加者同士で直接取引する枠組み)」、ポートフォリオ・トレーディングをはじめとする技術的な進歩によって、プライマリー・ディーラーとの良好な関係を構築することがこれまでのように不可欠ではなくなっていることが挙げられます。

たとえば、ポートフォリオ・トレーディングでは、1つの取引で多数の債券を売買することが可能です。これは取引の執行を確実にし、コスト削減を目的とした枠組みです。取引に応じたディーラーは、流動性が高く奥行きの深いETF市場においてポジションをヘッジすることが可能であり、その場合、ETF市場のマーケット・メーカーは追加的な流動性供給者としての役割を果たします。

また、取引金額に目を向けると、パブリック・クレジット市場の信用力が高い領域においては流動性が高いことが確認できます(図表1参照)。

図表1

図表1は、投資適格のパブリック・クレジット市場における月間の平均取引金額を示した棒グラフです(Y軸は10億米ドル、X軸は2008年から2024年4月までの期間)。月間の平均取引金額が、2008年の約2,000億米ドルから2024年の約8,000億米ドルまで、極めて着実に増加している傾向を示しています。

テクノロジーや商品設計の分野におけるイノベーションが進展することによって、今後もパブリック市場の流動性は下支えされ、取引金額は増加するとPIMCOでは考えています。

JPモルガンによると、米ドル建て投資適格債の年初来の1日あたり平均取引金額は348億米ドルでした(6月25日時点)。また、図表2で示したように、月によっては取引が発生しない投資適格債の割合は非常に限定的です。

図表2

図表2は、月によっては取引が発生しない米国のパブリック投資適格債の残高の割合(Y軸)を示した折れ線グラフです(X軸は2013年から2023年までの期間)。2013年には3%弱だった残高の割合は、2016年には1.5%未満に、2017年初期頃には1%未満に、2018年には0.5%未満に低下しています。その後も低下傾向が続き、直近では0.1%近辺となっています。

機会費用、アルファ、流動性プレミアムの比較

一般に、投資家はパブリック市場からプライベート市場に移行する際に、長期的なリターンを追求する代償として、ある程度の流動性を犠牲にします。ここでは、潜在的なメリットと内在するリスクを比較・評価することが重要になります。

投資資金をプライベート資産に充当した投資家は、その資金を活用してアクティブに取引する機会を失います。多くの場合、市場価格のばらつきに着目した取引や、過小評価された資産への投資が、アルファの源泉になる一方で、逸失機会の正味現在価値が流動性を犠牲にすることのコストになります。関連することですが、下落相場や上昇相場においては、流動性の低いポートフォリオをリバランスすることは容易ではありません。

また、ポートフォリオに流動性の低い資産を加えると、資金ニーズが生じた際に流動性の高い資産が不足してしまうリスクが高まります。このようなリスクからポートフォリオを保護するための費用を相殺するには、流動性プレミアムが必要になります。

このリスクと関連コストを基に推計したところ、長期的な非流動性コストは年200bp程度になりました。これには、債券ポートフォリオのアクティブ運用に由来するアルファを失うコスト、ポートフォリオのリバランスができないことのコスト、予期せぬ資金ニーズが生じた場合に流動性不足に陥ることのコストが含まれます。

一方で、過剰な投資資金が過少な投資機会を追い求める環境において、流動性供給の対価は、パブリック、プライベートいずれのクレジット市場においても、減少傾向にあります。両市場では、企業のクレジット・スプレッドが過去最低の水準近辺で推移するなど、新規の投資は潜在的な魅力に欠ける価格水準で行なわれています。

パブリック市場では、企業クレジットの流動性プレミアムとリスク・プレミアムが、魅力に乏しいと考えられる水準まで低下しています。このため、PIMCOでは、パブリック債券のアクティブ運用戦略において、政府系モーゲージ債(MBS)やストラクチャード商品のシニア・トランシェなど、流動性とリスク・プレミアムが健全であると考えられる分野に重点を置いています。このようにアクティブな調整を継続することによって、当初のスプレッドから見込まれる以上のリターンが期待されます。

パブリック市場において投資適格債のスプレッドが縮小しているのと同じように、プライベート・クレジット市場の投資適格の領域においても、流動性プレミアムは100bpを下回る水準まで縮小しています。この水準は、リバランスに関連する機会費用、パブリック債券に由来するアルファの喪失、潜在的な資金不足のコストに見合うものではないと、PIMCOでは考えています。

さらに、プライベート市場の中でも投資適格企業の多くは、流動性が高いパブリック債券市場へのアクセスを有するため、プライベート市場での資金調達に際して、信用力に影響する資本構造上の微細な条件設定に対して、わずかな上乗せスプレッドしか負担しないようになっています。パブリック市場とプライベート市場における投資適格企業の信用力の差異を勘案すると、100bpを下回る超過スプレッドの水準の魅力は一段と低下します。

投資適格の領域から離れて、プライベート市場における企業クレジット(ミドルマーケット向けダイレクト・レンディング)とシンジケートローン(BSL)市場全体を比較すると、同じような状況が浮かび上がります。後者(BSL)に対する前者(ダイレクト・レンディング)の上乗せスプレッドは、3年前には400bp程度でしたが、2024年に入って193bpまで縮小しています(図表3、リンカーンおよびLSTAのデータに基づくPIMCOの試算)。

図表3

図表3は、3つの実線から構成される折れ線グラフであり(X軸は2013年から2024年初期までの期間)、プライベート・クレジット市場において投資資金を固定化することに対する代償が減少している傾向を示しています。青色のラインは、プライベート・クレジット投資の平均利回りを表わします。緑色のラインは全体を通して青色のラインを下回り、レバレッジド・ローンの平均利回りを表わします。赤色のラインは、両者の差を表わします。両者の差は、2018年の約4.5パーセントポイントから、2024年には1.93パーセントポイントまで低下し、表記の期間中で最も小さくなっています。4つ目の点線は、表記の期間中における両者の差の平均値(3.34パーセントポイント)を表わします。

流動性供給に関連するコストを、縮小傾向にある流動性プレミアムに照らして評価すると、投資家は現在、特定のプライベート・クレジットの分野、特に資金を調達した後速やかに利用するインセンティブが存在する分野において投資資金を固定化する際に、十分な見返りを享受していない状況がうかがえます。

信用力の違い-パブリック市場 vs. プライベート市場

投資家は、パブリック市場とプライベート市場における平均的な信用力の違いについても、考慮する必要があります。

  • 信用力およびフリーキャッシュフロー創出能力:プライベート市場の債務者企業は、人工知能(AI)がもたらす創造的破壊や事業環境の変化の影響を受けやすい、テクノロジーや医療サービスなどの業種に集中しています(詳細は最新の長期経済展望債券利回りの優位性」をご参照ください)。高金利環境の長期化、経済成長の鈍化、デフォルトの増加、回収率の低下の影響を受けやすい、変動金利型の負債を抱える高レバレッジの小規模企業が数多く含まれます。市場金利の上昇は、パブリック市場の企業よりもプライベート市場の企業のインタレスト・カバレッジ・レシオ(営業利益による利払い能力を示す指標)に、影響を及ぼし始めています。また、プライベート市場では、固定費用カバレッジ・レシオが1倍を下回るダイレクト・レンディング債務者の割合が、2年前の15.9%から、今年に入って40%まで上昇しています(図表4参照)。つまり、債務者の40%(金額加重ベース)が、負債、税金、設備投資のニーズをすべて充足するために必要なキャッシュフローを、生み出していないことになります。これに該当する企業は、高金利環境の長期化や経済成長の鈍化といった事態に際して、財務レバレッジのさらなる上昇、信用力の悪化、期待損失の増加によって、より脆弱な状況に陥る可能性があります。信用サイクルがそのような段階に入ると、新規の投資家は、有利な条件で新たにファイナンスを提供する魅力的な機会を享受できる可能性が高くなります。

図表4

図表4は、X軸を2022年第1四半期から2024年第1四半期までの期間とする棒グラフです。プライベート市場において、固定費用カバレッジ・レシオが1倍を下回るダイレクト・レンディング債務者の割合は、2022年初期の15.9%から今年に入って40%まで上昇しています。この図表は、プライベート・クレジットの債務者が利払い費用の手当てにおいてさらなる困難に直面している状況を示しています。
  • プライベート・エクイティのダイナミクス:プライベート・エクイティの保有者は、基準金利の急激な上昇を受けて、保有期間の長期化やバリュエーション悪化の圧力に直面しています。そのため、ポートフォリオの構成企業を支援する意欲や能力が弱まっています。また、市場に新たな参入者が加わったことで、スポンサー・レンダー間の関係の重要性が弱まり、プライベート・クレジット案件における契約条件の悪化につながっています。
  • 市場の変化とイノベーション:信用力が高い企業の多くがパブリック市場に回帰しているため、プライベート・クレジットのポートフォリオには選択バイアスの問題が生じています。プライベート・クレジット市場では、別の借り入れからの利払いを可能にする「シンセティックPIK(利息繰延べ)」の手法をはじめとするイノベーションが導入されているものの、金利の上昇によって過去の投資案件におけるフリーキャッシュフローが下押し圧力を受けているため、債務者のストレスを覆い隠すだけに終わる可能性もあります。

プライベート市場全体において、リスクおよびコストとの見合いで投資の期待リターンを検討すると、低流動性の問題に対応できる投資家には魅力的な選択肢が数多く見受けられるものの、セクターと個別銘柄を慎重に選択することが重要になります。

結論

PIMCOのグローバル・プラットフォームでは、パブリック市場とプライベート市場の両方を網羅しています。資産クラス、セクター、地域の切り口で、相対価値の投資機会を常に模索しています。パブリック債券市場とプライベート・クレジット市場において、常に魅力が存在する領域とそうではない領域が色分けされているわけではありません。いずれの市場でも、さまざまなセグメントにおいて、投資機会は常に潜んでいます。投資判断に際しては、投資機会全体の中から、最新のバリュエーションと信用力評価を反映させる必要があります。

PIMCOでは、現在の相対的なバリュエーションと市場環境を念頭に、信用力と流動性の高いパブリック債券市場に大きな価値が存在すると確信しています。幅広いリスクと流動性の特性を有する他の多くの選択肢と比べて、現時点の利回りには顕著な割安感があると考えられます。

インフレ率が政策目標の水準に向けて低下するなかで、信用力の高い債券は、リスク資産に対する魅力的で流動性の高いヘッジ機能を発揮する可能性があります。加えて、プライベート市場の中でも、資産担保融資やオポチュニスティック・ファイナンスなどの、取引量の少ない領域を対象とする投資は、適切な流動性プレミアム、信用力の高さ、担保資産による強力なプロテクションが確保される限り、投資家に魅力的な価値を提供する可能性があります。

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