インフレ抑制への確信が高まる中、FRBは利下げに向けた地ならしを
米連邦準備制度理事会(FRB)は7月31日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、予想通り政策金利を据え置きました。一方で、声明文には控え目ながらハト派的な修正を加え、早ければ9月とみられる利下げに向けて地ならしをしました。ただジェローム・パウエルFRB議長は、9月以降については何ら示唆することなく、政策委員会の議論は会合ごとに行われ、見通しの進展次第になると強調しました。
PIMCOでは、FRBが9月と12月の年内2回の利下げを実施するだろうとの予想は変えていません。インフレに関する最近の明るい材料、特に重要な点として、下半期の帰属家賃(OER)上昇率のさらなる鈍化に向けて進展が確認されたことや、求人が正常化しつつあることから、米国のインフレは引き続き緩やかに鈍化するとの確信を高めています。
基本シナリオとして、FRB高官は9月から利下げを開始し、政策が中立に近づくまで四半期に1回のペースで利下げを継続する意向なのではないかとPIMCOではみています。とはいえ、11月の米大統領選は大きな波乱要因です。貿易政策の転換が、成長の重しとなり、インフレを押し上げる可能性があるためです。こうした不確実性を踏まえると、FOMCは金利を徐々に引き下げ、時々の経済動向に応じて対応したい意向で、特定の一連の行動に事前にコミットすることは望まないでしょう。
ハト派に傾く声明
FRBは以下の重要な2つのポイントを伝えるべく、声明文の文言を修正しました。(1)インフレが少なくとも「2%程度」に落ち着くことについて、当局は自信を深めている。(2)その結果、インフレと雇用というFRBの二重の責務に対するリスクは、今やはるかに均衡がとれている。どちらの修正も、利下げのタイミングが近づいていることを示唆していますが、利下げ開始後のペースについては何も示していません。
声明文の最初の段落では、賃金と物価の両方で最近インフレ指標が改善を続けていることを認め、労働市場が沈静化を続けている点を取り上げています。声明では、減速しつつも依然堅調な雇用の伸びに特に言及しています。PIMCOがより重要だと考えている点で、明示的に言及されていないものとしては、失業率に対する欠員率が2021年と2022年の深刻な労働力不足から完全に回復している点が挙げられ、基礎的なインフレ圧力が緩和傾向にあることがうかがえます。
労働市場の沈静化と、FRB高官が「でこぼこ道 」と呼んだ第1四半期以降、インフレ抑制に再び進展が見られたことは、リスク見通しがより均衡が取れた論拠となり、緩やかなペースの利下げがまもなく開始される可能性を示唆しています。
パウエル議長の発言
声明発表後の記者会見でパウエル議長は、インフレに最近改善がみられることを認め、労働市場はパンデミック前の状態に戻り、最早インフレ圧力の大きな要因ではない可能性が高いと述べました。さらに、FOMCは一つや二つの良好な指標に過剰に反応すべきでないと指摘しました。しかし議長自身もFOMCも、インフレ率が2%に戻る持続可能な道を進んでいることについて自信を深めている、と述べています。その結果、当局は、現在よりもわずかに制約を緩和した水準へと政策調整を開始する準備を整えています。
パウエル議長は、利下げが適切かどうかを評価するためFOMCが検討すべき要素について説明し、次のように述べました。
「問題は、データの全体性、進化する見通し、リスクのバランスが、インフレに対する自信の高まりと堅調な労働市場の維持と一致するかどうかだ。その要件が満たされれば、早ければ9月の次回会合で政策金利の引き下げが検討される可能性がある。」
重要なのは、パウエル議長が9月以降については何ら示唆することなく、政策委員会のメンバーは「将来の会合について何も決めていない」と強調した点です。
金融政策の影響を含めた見通しや、米大統領選を控えて高まる財政政策の不確実性は、FRBが引き続き重視しなければならない重要な要素となります。こうした不確実性を踏まえ、パウエル議長は、決定はあくまで会合ごとに行われると強調したのです。
結論
過去数十年で最も速く、最も積極的な利上げサイクルを引き起こしたパンデミック後のインフレ急騰期を経て、FRBは利下げ開始が近づいていることを確認しました。今年初めにもたついたインフレは、その後、進展が見られ、幅広い分野で鈍化しています。さらにパンデミック関連の労働力不足が賃金上昇圧力になっていた労働市場も、バランスを取り戻したように見えます。
こうした動きを背景に、FRBにはインフレ・リスク単独ではなく、物価と雇用という二重の責務に対する両面のリスクが浮上しています。このためFRBは9月に利下げを開始し、向こう数四半期、さらにその先にわたり慎重なペースで数回の利下げを実施する可能性が高いとみられます。ただ、米大統領選とそれに伴う政策の転換が不確実性を高めており、先行きは依然として不透明です。とはいえ、当座、FRBは不確実性の中で、可能な限り適切に政策を位置づけなければならず、それはつまり中立に向かって政策を徐々に調整し始めることを意味する、とPIMCOでは考えています。
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