相反する動きで複雑化する、FRBの2つの使命
米連邦準備制度理事会(FRB)は3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利の誘導目標レンジを4.25%~4.5%に据え置き、経済見通しの不確実性が高まる中で、追加利下げに対して慎重な姿勢を示しました。FRB当局者は、足元で米国政府が貿易や移民政策をはじめとする諸政策の大幅な変更を打ち出したことを踏まえて、経済成長見通しを下方修正する一方で、インフレ見通しを上方修正しました。
その結果、経済成長見通しに関しては長期的なトレンド予測との整合性が保たれる一方で、インフレ目標(2%)の予想達成時期は先送りされる形となりました。今回の修正によって、上昇するインフレ期待と高まる景気後退懸念の両方に対応するというFRBの困難な課題が、改めて浮き彫りとなりました。金融市場の動向や景気調査の結果からは、近い将来、景気後退入りする懸念とインフレ上昇のリスクが同時に高まっている様子がうかがえます。
センチメントは急激に変わる可能性があり、FRBは過剰な反応を避ける意向であるとみられます。結局、失業率の動向が最終的な判断基準になるだろうと、PIMCOは考えています。FRB当局者は、失業率が上昇基調に転じるようであれば利下げに動き、それまでは政策金利を据え置き、慎重な姿勢を保つでしょう。この見方は、当局者の大多数が2025年の金利見通しを上方修正したこととも整合がとれています。
PIMCOでは、今回の3月のFOMCを受けて、年内の利下げは緩やかなペースにとどまるという基本シナリオは変更していませんが、経済活動の急激な減速によって、FRBがより迅速な政策対応を迫られるリスクは高まりつつあると見ています。
上方修正された政策金利見通し
FRB当局者は、米国政府が足元での貿易や移民をはじめとする諸政策の大幅な変更を打ち出したことを踏まえて、経済成長見通しを昨年12月時点の予想対比で下方修正する一方で(長期的なトレンド予測との整合性は維持)、インフレ見通しを上方修正し、目標2%の予想達成時期を先送りしました。この修正を行ったにもかかわらずFOMCの参加者は、不確実性が高まっており、インフレ率は上昇し経済成長は減速する方向にリスクは傾斜しているとコメントしています。
トランプ政権の政策転換によって、インフレ目標(2%)の達成時期の遅れが見込まれることに加えて、FRB当局者の多くは、中立金利に戻る時期についても先に延ばしました 。ドット・プロットの中央値は、引き続き2025年と2026年に50ベーシスポイント(bps)の利下げを予想しているものの、内訳を見ると12人が2025年の見通しを上方修正しています。また、利上げを予想する当局者はいないものの、前回は4人が年内の利下げ回数を0~1回と予想したのに対して、今回は8人が年内(あるいは年内のほとんどの期間)の政策金利の据え置きを予想しています。
今回の予想修正を受けて、あと2人が予想を引き上げれば、年内の予想の中央値は動くことになります。
米国の経済成長とインフレは波乱含みの展開に
今回のFOMCは、インフレの上昇と米国経済の景気後退入りの懸念に加えて、市場のセンチメントが悪化する中で開催されました。昨年の大統領・連邦議会選挙の前の時点では、PIMCOは基本シナリオとして、2025年に米国経済は緩やかに減速する公算が大きいと予想していました。これは、パンデミック後のより「ノーマル」な環境の下で、米国の経済成長は長期的なトレンドに向かうという見方によるものです。しかしながら、このような景気減速見通しに対する短期的な下振れリスクは、トランプ政権が矢継ぎ早に打ち出した政策転換によって増幅され、減税などの経済成長志向の政策が実施される前に、米国経済が減速する可能性が高まっています。
ここ最近、購買担当者景況指数(PMI)、景況感関連の指標、労働市場関連の指標など、米国経済が減速する一方でインフレ懸念が高まっていることを示唆する経済指標が相次ぎましたが、先週発表されたミシガン大学消費者信頼感指数も同様の内容でした。FRBのパウエル議長は記者会見で、失業率や国内総生産(GDP)をはじめとするハードデータは総じて安定しているものの、景気調査などのソフトデータでは「重大な懸念」が表面化していると指摘しました。
バランスシートの変化
また、FRBは、バランスシートの縮小(量的引き締め (QT) )のペースをさらに減速させることを発表しました。米国債の月間償還上限額をこれまでの250億ドルから50億ドルに引き下げる一方で、モーゲージ債残高は今後も減少を維持します。パウエル議長は、これは金融政策の変更ではなく、需給調整であることを強調しました。2月下旬時点で、FRBの準備預金残高は3兆3,000億ドルです。PIMCOのリサーチによると、これはFRBが翌日物金利を管理するにあたって、安定した下限を維持するのに必要なレンジをわずかに下回ります。債務上限問題が米財務省一般口座(TGA) に与える影響をうけて準備預金残高が減少し、レポ市場におけるボラティリティを悪化させかねないという懸念から、慎重なアプローチの必要性が高まっています。
QTを完全に休止する代わりに、縮小ペースを落とすことによって、FRBにはバランスシートをさらに縮小する余地が残ると考えられます。もっとも、最終的にはQTが年内に終わるとの見方をPIMCOは変えていません。パウエル議長は記者会見において、これを「より緩やかで、より長い」アプローチと表現しました。これまでのところ、短期市場金利では、(月末特有の動きを除いて)、広範囲で一貫した流動性のひっ迫を示す兆候はみられていませんが、FRBはレポ市場におけるボラティリティの上昇リスクを注視していくでしょう。
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