ばらつきの夏
今夏は世界の多くの地域で異例の暑さが続いていますが、金融市場は乖離とばらつきの点で、さらに暑い時期を迎えています。
第一に、先進国の中央銀行は利下げに軸足を移していますが、そのスケジュールは大きく異なります。欧州中央銀行(ECB)、カナダ銀行、スイス国立銀行、イングランド銀行は、いずれも過去数ヵ月に利下げを実施しており、年内に追加利下げを行う可能性が高いとみられます。米連邦準備制度理事会(FRB)は、まだ利下げを実施していませんが、特に労働市場に軟化の兆候が現れていることを踏まえ、まもなく利下げを開始すると予想されています。一方、日銀は7月末に金利を引き上げたばかりです。
こうしたばらつきについては、今年4月のPIMCO短期経済展望「分岐する市場、グローバル分散投資」で予想していました。各国間の経済成長、インフレ、中央銀行の政策の足並みがさらにばらつくことで、世界の債券市場全般でボラティリティが高まり、魅力的な投資機会が生まれるだろうと論じました。
最近では、この乖離のテーマがリアルタイムで展開されており、ソブリン債にとどまらず、クレジット市場や株式にも影響を及ぼしています。いくつか例を挙げましょう。
- 豪州では期待外れのインフレ指標が続いた後、好結果に転じたことを受けて、7月31日に2年債が反発しました。同日、日銀は0.25%の利上げを実施し、日本国債の2年債の利回りは上昇しました。この動きにより、豪州と日本の短期金利には即座に30bpsの差が生じました。
- ハイイールド債のCDXインデックスのスプレッドの分散は、過去最高に近づいています。8月2日現在、広く注目されている市場指標で、全体のクレジット・スプレッドのうち37%が、最大のスプレッドで取引されている10の発行体によるものであり(図表1を参照)、デフォルト・リスクの上昇と、最低格付けの債券の回復の見通しが下がっていることを反映しています。ハイイールド債市場のそれ以外の領域では、スプレッドは異例にタイトな状態です。
- 株式市場では、高成長のテック企業と小型株のあいだで、大きな乖離が生じています。大型ハイテク株は収益の低迷とAI投資のリターンへの懸念から足元で下落する一方、小型株は上昇しています。この展開に先立ち、ハイテク株は数ヵ月にわたって力強くアウトパフォームし、ポジショニングは過密になっていました。7月10日時点でナスダック100は、年初来でラッセル2000を21.7%アウトパフォームしていました。それ以降は、8月2日時点でラッセルがナスダックを13.6%アウトパフォームしており、7月11日には過去最高の5.8%のアウトパフォームを記録しました。
- 8月初めには、7月の雇用統計が期待外れだったことで、数ヵ月間眠っていたかに思われた米国の景気後退懸念が再燃したことを受けて、株式が売られ、債券は急伸しました。ばらつきだけでなく流動性の乏しさも市場を左右しています。例えば8月5日には、日経平均が12.4%も暴落し、年初来でマイナス圏に沈みましたが、翌営業日には損失分をほとんど取り戻しました。
PIMCOでは世界的なボラティリティとばらつきは続くと予想しています。これは、タイトな金融政策と高水準のソブリン債務が経済成長を脅かす中、特に世界のGDPの60%を占める国々で主要な選挙が行われるためです。幸い、この種のボラティリティは、アクティブ運用会社にとって、絶好の投資機会を生みだす可能性があります。
最近の市場の大きな変動は、年初来かなりの期間にわたって株式と現金の好リターンを享受してきた投資家に警鐘を鳴らすものです。PIMCOでは5月に、デュレーションを延ばし、魅力的な債券利回りを固定することの潜在的メリットについて言及していました(「現金保有のコストを考える」をご参照ください)。その時、「利回りが約80bps低下するだけで、価格が上昇し、短期および中期債のポートフォリオが現金のリターンの倍になる可能性があります。」と述べました。この時以降、2年物米国債の利回りは、1%ポイント以上低下しています。
今後増える景気リスク
各国中央銀行は、協調的な利上げで、パンデミック後のインフレ急騰をうまく抑えました。インフレ率は、短期間、多くの地域で痛みを伴う水準にまで急騰しましたが、政策当局の迅速な行動が奏功し低下を続けています。また金利は比較的落ち着いて推移し、直近は低下傾向にあり、債券の追い風になっています。
過去数ヵ月は、底堅い米国の成長とは対照的に、他の先進国は景気の軟化の兆候が見られましたが、最近は米国ですら脆弱に見えます。
7月の雇用統計は、米国の景気後退の信頼できる指標としてFRBが注目する経験則、(雇用データに基づく)サーム・ルールの発動寸前に達しました。以下の点には留意が必要です。サーム・ルールは歴史的に実際の雇用水準が低下した時に発動されてきましたが、これはまだ目立った形では起きていません。最近の雇用の弱さは労働供給に関係しており、労働市場に参入する求職者の数が増えています(図表2を参照)。
それでも、労働市場の緊張は、FRBが金融政策の緩和を開始すれば、利下げのペースを加速させる可能性があることを示しています。この点は、過去のサイクルと一致します。1980年代以降のFRBの利上げサイクルでは、0.25%以上の利上げを実施したのは、わずか25%でした。対照的に、利下げサイクルでは、約半数で0.25%以上の利下げを実施しています。また歴史を振り返ると、中央銀行がどの程度積極的に利下げを実施するかについては、予測の段階では、過小評価される傾向があることがわかっています。
現在のように初期の政策が乖離する中で、英国、カナダ、豪州などの債券が魅力的だとPIMCOではみています。その理由として、経済成長の下振れリスク、インフレ見通しの改善、住宅ローン制度を通じて金利が国の経済に直接的な影響を与える点が挙げられます。また、現在の世界的なばらつきを活かしたポジショニングの取引、例えば米国のイールドカーブのスティープ化に対する日本のイールドカーブのフラット化のポジショニングの取引なども選好しています。
最近の市場の大きな変動は、こうした状況下で本領を発揮する、ヘッジ手段としての債券の特性を想起させるものでもあります。アクティブ運用のグローバル債券の配分がもたらす分散効果は、幅広く安定性や均衡をもたらすバラストとして機能し、特に不安定な時期には、魅力的なインカムとキャピタルゲインの可能性を生み出します。債券ファンドの配分については、猛暑日にポートフォリオを涼しく快適に保つための魅力的なオプションとお考えください。
ご留意事項
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。全ての投資にはリスクが伴います。
債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境下ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。株式の価値は一般的な市場、経済、産業の実体と見込み両方の状況によって減少する可能性があります。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。
金融市場動向やポートフォリオ戦略に関する説明は現在の市場環境に基づくものであり、市場環境は変化します。本資料で言及した投資戦略が、あらゆる市場環境においても有効である、またはあらゆる投資家に相応しいという保証はありません。投資家は、自らの長期的な投資能力、特に市場が悪化した局面における投資能力を評価する必要があります。見通しおよび戦略は予告なしに変更される場合があります。
本資料には、本資料作成時点でのPIMCOの見解が含まれていますが、その見解は予告なしに変更される場合があります。本資料は情報提供を目的として配布されるものであり、投資助言や特定の証券、戦略、もしくは投資商品の推奨を目的としたものではありません。本資料内の情報は、信頼に足ると判断した情報源から得たものですが、その信頼性について保証するものではありません。
ピムコジャパンリミテッドが提供する投資信託商品やサービスは、日本の居住者であり、かつ法律による制約のない方に対して提供するものであり、かかる商品やサービスが許可されていない国・地域の方に提供するものではありません。個人投資家は、個人の経済状況に応じた最も相応しい投資の選択肢を決めるため、金融の専門家にご相談ください。運用を行う資産の評価額は、組入有価証券等の価格、デリバティブ取引等の価値、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況や信用力等の影響を受けて変動します。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。したがって投資元本や一定の運用成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。弊社が行う金融商品取引業に関してお客様にご負担頂く手数料等には、弊社に対する報酬及び有価証券等の売買手数料や保管費用等の諸費用がありますが、それらの報酬及び諸費用の種類ごと及び合計の金額・上限額・計算方法は、投資戦略や運用の状況、期間、残高等により異なるため表示することができません。
アリアンツ・アセット・マネジメント・オブ・アメリカ・エルエルシーの米国及びその他の国における商標です。@2024、PIMCO ピムコジャパンリミテッド
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第382号
加入協会: 一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人投資信託協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会
CMR2024-0802-3767136