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長期経済見通し

債券利回りの優位性

パンデミック後のインフレショックと利上げサイクルにより、債券の利回りは数十年ぶりに高水準にリセットされました。インフレが後退し、他の市場のリスクが高まる中、この先数年間の債券の見通しが明るくなっています。

世界経済は、貿易の混乱、大規模な金融・財政出動、長引くインフレ高進、金融市場の極端なボラティリティの高まりといった、パンデミックのアフターショックから回復し続けています。PIMCOの2024年長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、こうした混乱のアフターショックが予想外にポジティブな展開を生む一方で、いかに長期的なリスクをもたらしているかについて議論しました。

ポジティブな面として、ほとんどの先進国で予想以上に急速にインフレ率が低下している点が挙げられます。さらに、マクロ経済リスクとインフレリスクは、1年前の前回のセキュラー・フォーラムの時よりもバランスが取れているように見えます。また中央銀行は、それぞれ異なるスケジュールで利下げに転じる構えです。

しかしながら、投資家が恩恵を受けながらも、今後5年の間に発生しうるリスクを見落としているであろう分野が主に3つあるとPIMCOでは考えています。

  • 大規模な財政刺激策は、最近の米国の際立った成長を後押ししていますが、こうした例外主義には代償が伴います。米国の債務の軌道は持続不可能であり、政府は最終的に対処しなければなりません。一方、金融市場は、政府の支援を期待することなく運営を迫られる可能性が高まっていくと考えられます。
  • 人工知能(AI)は労働市場を再編し、生産性を高めるとみられますが、経済的に大きな影響を及ぼすまでには何年もかかるでしょう。巨額の設備投資にあわせ、過去のハイテクブームを彷彿とさせる形で株式市場が急ピッチで上昇しています。
  • いくつかの市場における資産バリュエーションは、投資家に明らかなクッションを提供できていません。該当する市場として、バリュエーションが割高に見える株式市場、流動性が低く変動金利の影響を受けやすい低格付け企業向けのダイレクト・レンディング(企業融資)の市場が挙げられます。

投資家にとっては、2020年代初頭のインフレショックと急激な政策金利の引き上げにより、債券の利回りは数十年ぶりの高水準に上昇し、現在はインフレ調整後の大きなクッションができています。投資開始時の利回りは、その後5年のリターンと強い相関関係があります。これは、特に他の資産と比較したリスク調整後ベースで、インフレが後退するにつれて債券リターンの長期見通しが魅力的であるという論拠になります。世界の債券市場における投資機会が非常に魅力的かつ多様に見える中で、アクティブ運用による国や銘柄の選択がカギを握ります。

こうした長期的な背景を踏まえると、株式60%債券40%という伝統的な資産配分のパラダイムを再考し、さらには逆転させる価値があるのではないかとPIMCOは考えます。

銀行が一部の市場から撤退する中、資産を担保とした融資に魅力的な投資機会があるとみています。特に米国の消費の強さを踏まえると消費者関連の分野は有望です。銀行の仲介機能の低下と資本ニーズから、商業用不動産(CRE)のデット(融資)に投資機会が生まれると予想しています。

PIMCOのセキュラー・フォーラムでは、市場と政策のダイナミクスを変化させるであろう多極的な世界秩序への移行を、米国と中国がどうリードしていくのかを検討しました。この数十年、各国が享受してきた平和の配当は、破壊的要因となりうる紛争費用に代わりつつあります。

長期経済展望のテーマ:バランスの取れたリスクと、全盛期への警戒

PIMCOの2023年の長期経済展望「アフターショック経済」では、2020年代初頭の創造的破壊によって生まれた新たな世界は長く続くだろうと論じました。マクロ経済のボラティリティが高まり、成長が鈍化する世界を目のあたりにしました。インフレ率を「2%程度」の目標水準に戻すために、中央銀行は必要なことは何でもするだろうと予測しました。

こうしたテーマはおおむねまだ有効だと考えていますが、今後5年の見通しを考えるにあたっては、2023年5月の長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)以降に起きた事象を評価する必要があります。代表的な事象としては次のものが挙げられます。

  • 中東で戦争が勃発し、欧州での戦争は3年目に突入しました。
  • インフレは、ほとんどの先進国で急速に、これまでのところ痛みを伴うことなく「2%程度」に低下しています。
  • 米国と他の先進国とでは、インフレと成長軌道に著しい乖離が見られます。
  • 失業率が過去最低に近い状況で、米国の財政赤字は予想外に倍増しました。
  • 持続不可能な米国財政が更に悪化するとの懸念が引き金となり、10月に「米国債のタントラム」と呼ばれる市場の混乱が起きました。
  • 資本と流動性規制が強化される中、銀行のリストラが続いています。

PIMCOの長期経済展望は、最新の短期経済展望「分岐する市場、グローバル分散投資」もベースにしています。その見通しでは、中央銀行の利下げの経路はばらつき、多くの先進国経済が減速する中、米国の相対的な強さが持続するとみていました。これを受け米国の金融市場では「リスク再燃」というテーマが浮上し、こうしたトレンドが短期的なものなのか、それとも持続的なものなのかという疑問が生じています。

中央銀行は柔軟性を維持

世界経済に波及したパンデミック後の急激かつ短期的な景気の調整は、今やより持続的な長期トレンドに取って代わり、重要な意味合いをもっています。PIMCOでは、長期的に世界経済の成長が鈍化し景気サイクルは不安定になるとの予想を変えていませんが、見通しをめぐるリスクは1年前よりもバランスが取れているように見えます。

その一因は、ほとんどの先進国で、インフレ率が「2%程度」の水準に急速に戻ったことにあります。急激な金融政策の引き締めによりインフレ高騰は抑えられ、中期的なインフレ期待が上昇することはありませんでした。

リスクのバランスが改善されたもう一つの要因として、中央銀行が目標金利水準への舵取りをするにあたり、暗黙のうちに「オポチュニスティック・ディスインフレ」戦略を採用している点が挙げられます。この戦略では、インフレが沈静化しているとみられる時期には、成長を支えるために政策当局に金利を引き下げる余地が生まれます。

2023年は金融状況の引き締めが、金融の不安定化につながることを懸念していましたが、そうした事態にはなっていません。世界の銀行市場およびノンバンク金融市場に対するシステミック・リスクは抑制されているように見えます。

とはいえ、規制の流れは明らかに、銀行の自己資本と流動性要件を厳格化する方向に向かっています。特定の市場で、銀行がバランスシートのキャパシティを提供できなくなると、多くの融資活動が非公開市場へと向かうでしょう。

消費者金融、住宅ローン、設備融資など、かつては地方銀行が占めていた分野に、返済の優先順位が高い資金の貸し手として、投資家が参入する余地が増えているとみています。また柔軟性のある資本向けとしては、商業用不動産(CRE)にも投資妙味があります。不動産価格の下落と今後数年に返済期限を迎える2兆ドルを超える融資 に伴う問題が、銀行の撤退で悪化するためです。

…しかし、財政余地は限られている

金融政策を取り巻く状況は改善していますが、財政見通しは改善していません。今年のセキュラー・フォーラムでは、世界の財政軌道、とりわけ米連邦債務の動向が焦点となりました。

米経済の景気循環的な強さが持続的なものなのか、それともパンデミック期の財政支援と対国内総生産(GDP)比の債務残高の上昇に支えられているだけなのかは、まだ判然としません。米国が最終的に財政破綻に直面した場合、社会保障改革と増税による債務再編が行われる可能性が高いとみられます。現在の政治環境ではあり得ないと思われますが、聖域とみられる領域にも手をつけざるをえないかもしれません。

先進国は対GDP比で巨額のソブリン債残高を抱えており(図表1を参照)、投資家が長期債に対する補償の上乗せを求め続けることから、今後5年間の間に利回り曲線はスティープ化する可能性が高いとみられます。例えば、フォワードの物価連動債の利回りや米国債のタームプレミアムの推計など、中央銀行が利下げを開始する前から、市場がこうした調整の一部を既に織り込んでいることを示す証拠があります。詳細については、最近の記事「真の米国債のタームプレミアムは上昇するか?(英語版)」をご覧ください)。

図表1:財政出動の余地は限られる

図表1

図表1:財政出動の余地は限られる
出所:国際通貨基金(IMF)、カーメン・ライン、ケネス・ロゴフ、PIMCO、2023年12月までの年次データ。「先進国」とは、2015年までのG20先進国(豪州、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、英国、米国)と2023年までのIMFが定義するすべての先進国を指します。

将来の景気サイクルの悪化によるダメージを抑えるべく裁量的な財政政策を検討する際に、当局がより多くの制約に直面することはほぼ確実です。PIMCOの基本シナリオでは、金融危機が突然起きるのではなく、財政問題に焦点が移った時に市場のボラティリティが繰り返し高まる事態を想定しています。

こうした財政圧力はあるものの、米ドルは引き続き世界の基軸通貨であり続けるとみています。米ドルに対抗できるだけの通貨が存在しないことが、少なからず関係しています。米国の債務はいずれ清算される可能性がありますが、移民や生産性、イノベーションにおける米国の優位性を考慮すると、差し迫っているとは思えません。米国債は世界的な準備資産であり、米経済全般のダイナミズムを反映しています。「安全な逃避先」、流動性のある価値貯蔵手段としての米国債に対する需要の高まりから、これまでのところ、財政の持続可能性に対する債券市場の懸念は限定的でした。これは、財政改革のタイムラインが超長期である可能性を示唆しています。

諸外国と比較すると、米国は依然として「汚れたシャツの中では最も綺麗」なのかもしれません。中国の見通しは、不動産セクターの不況、人口の高齢化、輸出市場の開放性の低下が難題として立ちはだかっています。欧州では、地域紛争、エネルギー不安、高付加価値の工業製品をめぐる中国との直接的な競争に直面する中、政治の分断により包括的な成長戦略を策定するのは難しいとみられます。

多極化する世界へ

地政学的な状況を特徴づけているのは、支配的な超大国(米国)と台頭するライバル(中国)との緊張であり、その傾向はますます強まっています。中国もロシアも、西側の理想とは相容れない明確な長期ビジョンを持っています。過去30年間に実現した平和の配当は、紛争の代償となりつつあります。

これは多極化世界への移行を裏付けるものです。この世界では協力が限定的であるため、新たな中堅勢力が出現する可能性があります。また、多極化世界への移行は、市場間の相関関係の変化や、潜在成長率と政策対応の乖離の拡大にもつながると考えられます。景気サイクルの同調性も低下するでしょう。こうした基礎的な要因により、マクロ経済や金融市場のボラティリティは、パンデミック前より大きくなると予想しています。

金融安定性に対するリスクも高まっており、紛争によって国境を越えた資金の流れが大きく変化したり、資本が毀損される事態になれば、問題が顕在化する可能性があります。潜在リスクを考慮すると、中国におけるクレジット投資のリスクプレミアムは低すぎて魅力的ではないとみています。

中国経済は失速しないにしても、成長は減速すると予想しています。注目すべきは、中国が再びグローバル化を進めている点です。不動産セクターの崩壊を穴埋めするために生産とインフラに重点を置いた新たな成長モデルが、製造業の輸出増加を牽引しています。こうした方向転換により、世界経済における中国の役割、特にコモディティ市場とインフレへの影響、そして、国際金融秩序への統合を再評価する必要があります。

主なエマージング市場は、今回のサイクルで目覚ましい回復力を見せました。エマージング諸国の危機の引き金となることが多い要因、すなわち資本逃避、金融状況の引き締まり、コモディティ価格の暴落といった典型的な組み合わせは、現時点では見当たらず、今後5年の間に浮上する可能性も低いとみられます。エマージング諸国の債務水準は上昇していますが、先進国と比べるとこれまでのところ持続可能な水準にとどまっています。

今年は、世界のGDPの約60%に相当する国で大きな選挙が実施されます。特に欧州でポピュリスト政党が支持を集める兆しが見られる中、世界中で行われる選挙は、経済政策と地政学的政策の優先順位を変える可能性があります。選挙の結果によっては分断や多極化、そして保護主義的な施策への傾向が強まり、友好国間で供給網を再編するフレンドショアリング投資が選好されるリスクがあるとみています。インド、インドネシア、メキシコなどは、その恩恵を享受する立場にあります。

米国の大統領選に目を向けると、貿易、税制、移民、規制、環境政策が混乱をきわめる可能性があると考えています。米国の財政赤字は、選挙結果にかかわらず過去最高水準にとどまる可能性が高いでしょう。民主・共和両党とも、中国に対する強硬姿勢を貫いています。

注目が集まるAIの効果

生成AIは、労働市場を変革し、誰でも意思決定する仕事にアクセスし、より多くの人が情報に基づいた意思決定ができるようになる可能性を秘めています。

しかし多くの組織は、いざAIを効果的に活用しようとすると課題に直面することになります。生産性と効率性の劇的な向上は、向こう5年のマクロデータでは明確に見られないでしょう。マクロレベルでAIのメリットを最大化するには、テクノロジー自体を導入するだけでなく、個々の組織のミクロレベルで、仕事の流れを再構成したり、生産工程を見直す必要があるからです。

過去数十年に登場した他の新しいテクノロジーと同様、既存の労働慣行を多少改善する程度では、生産性への大きな影響はあまりないかもしれません。ただ、医療や科学など特定の分野では、生産性の伸びに大きな影響を与える画期的な変化が起きる可能性があります。

PIMCOの基本シナリオでは、新しいAI大規模言語モデルの影響は、今後5年間で徐々に表れる一方、混乱はもっと早く起きる可能性があると考えています。コンピューター、データセンター、グリーンエネルギー技術への設備投資ブームにより、AI以外の用途にこれらのリソースが活用される一方で、他の分野でAIの導入により大きな進歩がもたらされる可能性が現実味を増しています。予想外のマイナスの影響もありえます。特に監視、操作、セキュリティ上の脅威に対してAIモデルが悪用された場合、イノベーションを阻害する制限が課される恐れがあります。

現時点で設備投資は、一時的な興奮状態を招く可能性があります。結局のところ、長期にわたる持続可能な成長を生み出すには、効率性の向上が必要だと言えるでしょう。

半導体チップ、データセンター、さらにはそれらに電力を供給する発電容量の需要は爆発的に増加すると予想されており、こうした傾向はただちに各セクターに影響を及ぼすと予想されます。

中立政策金利は低水準にとどまる

現在の高水準の政策金利は、インフレ高騰という循環的要因の帰結です。ひとたびインフレ率が中央銀行の目標近辺で安定すれば、先進国の中立的な政策金利は、世界金融危機前を下回る水準に落ち着く可能性が高いと予想しています。

向こう5年の米国の中立的な名目政策金利は、2%~3%のレンジにとどまる可能性が高いとみています(長期的な実質金利は0%~1%)。これに対し現在の市場に織り込まれている水準は、中立金利が4%を大きく下回らないと予想していることを示しています。これは債券投資家にさらなる機会をもたらす可能性があります。現在の利回りには、プラスの実質金利とタームプレミアムという形で既にクッションが取り込まれているためです。

現在、中央銀行のバランスシートは、量的引き締め(QT)プログラムのもとで縮小していますが、依然として量的緩和(QE)時代より前の水準を大幅に上回る水準にとどまるだろうと予想しています。先進国の中央銀行は、ソブリン債とレポ市場の円滑な機能を確保し、最後の貸し手の役割を果たすために、資産購入プログラムを引き続き活用する可能性が高いとみられます。具体例としては、2023年の米国のFRBの「銀行ターム・ファンディング・プログラム」や、2022年にイングランド銀行が英国債市場を支えたオペレーションなどが挙げられます。

しかしながら、中央銀行が将来の景気後退に対し、無制限の資産購入プログラムによる量的緩和を実施する可能性は低いとみています。資金調達コストが資産のリターンを上回る、大規模な証券ポートフォリオを維持することの財政負担は、ますます明らかになっています。

金融と財政のプット、つまり景気後退時に政府の救済を期待することは、今日ではさらなる損失を招きます。そのため政府が低迷する経済を刺激し、ショックを緩和するために支援する余地は限られます。市場が政府支援に対する期待よりもファンダメンタルズに基づいて取引されるようになるため、ボラティリティはさらに高まると予想しています。

投資への意味合い:債券の復活

PIMCOの2024年の長期経済展望では、公募債券市場に改めて注目しています。他の資産クラスと比べてリターンが魅力的でリスクが低いと考えています。現在の利回りとインフレ見通しの安定により、債券がポートフォリオにおいて基本的な優位性を再び発揮できる状況が生まれています。すなわち、魅力的なインカム、ダウンサイドに対する強靭性、株式との相関性の低下により安定性を提供できる状況です。

専門知識を持つ多くの資産配分担当者は、株式60%債券40%という伝統的な配分を超えて投資をしています。それでも60対40という配分は、投資を議論する際の経験則としていまだによく引用されています。PIMCOでは、この概念を見直し、配分を逆転させるべき時代に突入しつつあると考えています。

パンデミック後のインフレ・ショックとそれに続く中央銀行の利上げサイクルにより、債券利回りは急激に上昇しました。歴史的に見ると、開始時点利回りは、その後数年の債券リターンを予測するうえで確度の高い指標だと言えます(図表2を参照)。質の高い債券の一般的なベンチマークであるブルームバーグ米国総合指数とグローバル総合指数(米ドルヘッジあり)の利回りは、2024年4月30日現在、それぞれ約5.31%、5.41%となっています。

図表2:債券市場における開始利回りは、歴史的に5年先リターンと相関性

図表2

図表2の折れ線グラフは、1976年1月から2024年4月までのブルームバーグ米国総合債券インデックスの利回りに、その後5年間のリターンを重ねたものです。この間、開始利回りと、その後5年のリターンには強い相関関係(94%)がありました。2010年以降の平均利回りは2.6%ですが、2021年以降は上昇傾向にあり、2024年4月30日時点で5.31%でした。出所:ブルームバーグ、PIMCO
出所:ブルームバーグ、PIMCO、2024年4月30日現在過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。図表は説明を目的としたもので、PIMCOの過去及び将来のいかなる商品の運用成果を示すものではありません。利回りとリターンは、ブルームバーグ米国債券総合インデックスを使用しています。インデックスに直接投資することはできません。

これをベースラインとして、アクティブ運用会社は投資家が獲得する利回りの向上を目指すことができます。アクティブ運用会社は、政府系モーゲージ債(MBS)など質の高い領域で魅力的な投資機会を見極めることで、金利、信用、非流動性の各リスクを大きくとることなく、利回りが6%~7%前後のポートフォリオを構築することができるのです。

結果として、分散された債券への配分は、より有利なリスク調整後プロファイルを備え、長期的に株式並みのリターンをもたらす可能性があります。特に株式市場のバリュエーションが割高になる可能性を踏まえると、そう言えます。市場は大きな景気後退リスクを織り込んでいるようには見えません。だとすれば債券は、そのリスクをヘッジするための安価な手段になると考えられます。

図表3:株式は絶対ベースでも、米国債との対比でも割高に

図表3

図表3は表と折れ線グラフで構成されています。折れ線グラフは、1953年5月から2024年4月までの株式リスクプレミアム(ERP、株式利回りから実質債券利回りを差し引いたもので、株式の指標はS&P500)の推移を示しています。期間中、ERPは1982年の9.7%をピークに、1999年に-2.0%で底を打ち、2009年には5.7%にまで再上昇しました。パンデミック後は低下し、2024年4月30年時点で0.59%となっています。表は、2024年4月30日時点のサイクル調整後の株価収益率(CAPE)が33.38%、実質株式利回り(1/CAPE)が3.00%、30年物実質債券利回りが2.41%であることを示しています。出所:ブルームバーグ、ロバート・シラー・オンラインデータ、グローバル・ファインシャル・データ、PIMCO
出所:ブルームバーグ、ロバート・シラー・オンラインデータ、グローバル・ファイナンシャル・データ、PIMCO、2024年4月30日現在。すべてのバリュー指標は、S&P500指数との対比で示しています。CAPEは、景気循環調整後の株価収益率です。実質株式利回りレシオは、過去10年間の平均実質利益を直近の株価で割ったものです。30年物実質債券利回りは、30年物米物価連動債(TIPS)の利回りに相当し、30年物米国債の名目利回りから予想インフレ率を差し引いています。期待インフレ率の推計には、Cieslak and Povala(2015)の調整に従ってトレンド・インフレを推計し、30年先のインフレ率を予想しています。

現在の債券には、クッション(緩衝材)となるタームプレミアムも組み込まれています。PIMCOでは、政策金利の低下とタームプレミアムの上昇に伴いイールドカーブはスティープ化すると予想しており(詳細は、3月発行のPIMCOの視点バック・トゥ・ザ・フューチャー:ターム・プレミアムが復活の構え、幅広い資産価格に影響」をご参照ください)、構造的なトレードとしてイールドカーブのスティープ化を前提としています。

米国のイールドカーブは、過去最長の逆イールドが続いた後、比較的平坦なままで推移しています。これは、投資家が金利リスクを多く取る必要がないことを意味します。PIMCOは現時点で、イールドカーブの5年債のゾーンに価値を見い出しており、長期部分については財政上の懸念からアンダーパフォームする可能性を警戒しています。今後5年間は、債券のアクティブ運用は、景気後退が起こらなければ良好なパフォーマンスを記録し、景気後退が起きた場合には、パフォーマンスがさらに向上する可能性があります。利回りが低下すればキャピタルゲインを得られる可能性がある点で、債券は現金に比べて魅力的と見ています。

世界の債券市場はとりわけ魅力的で多様な投資機会を提供していますが、リスクを大幅に増やすことなく利回りを高める手段としての機会を投資家は見逃しがちです。世界の債券利回りは、先進国もエマージング諸国も魅力的な水準に戻っています。米国以外の多くの国は脆弱性に直面していますが、当初の財政状態は良好です。これらはいずれも債券の支援材料です。

景気サイクルの同調性が低下し、ひいては金融市場全体の相関性が低下すると予想しています。地域ごとに異なる中央銀行の政策や市場環境は、グローバルな投資プラットフォームを有するアクティブ運用者にとって、こうした乖離を利用し、国や銘柄の選択を通じてリターンをさらに向上させる絶好の機会をもたらします。オンショアリング(国内回帰)、フレンドショアリング(友好国重視)、エネルギー転換を促進する補助金等の産業政策や貿易政策は、セクター別でも国別でも勝者と敗者を生み出し、アクティブ運用者にさらなる投資機会をもたらすものとみられます。

インフレをめぐる潜在的なボラティリティを考慮すると、米物価連動国債(TIPS)、コモディティ、実物資産にインフレヘッジ効果があり、実質金利はパンデミック前の水準より高くなります。

銘柄選択と流動性を優先

信用スプレッドは全体として概ね適正に見えますが、長期的には個別銘柄およびセクターの選択がより重要になるでしょう。パブリック(公募)、プライベート(私募)両クレジット市場が成長していますが、ボラティリティが高い時期には、柔軟な資本をもつアクティブ投資家により多くの投資機会をもたらすはずです。

より強く、回復力のある企業の多くは、多額の現金を生み出しており、資金調達に大きく依存しているわけではありません。体力の弱い企業の方が、継続的な信用へのアクセス拡大を必要とする傾向があります。人工知能(AI)の生産向上技術が発達すればするほど、企業や産業全体で破壊的影響が大きくなり、勝者と敗者が分かれることになるでしょう。過去においては、新たなテクノロジーが登場するとその後、好景気と不景気のサイクルが続くことが多く、ボラティリティを生じさせましたが、同時にボトムアップのアクティブな投資機会ももたらしました。

銀行規制の強化を予想しており、そうなれば仲介機能が低下し、私募市場を経由する資金が増えるはずです。PIMCOでは、銀行が資本管理と規制要件への対応を迫られていることから生じる流動性ギャップに引き続き注目しています。例えば、今回の銀行融資の縮小に伴い、商業用不動産(CRE)の債権の分野で柔軟な資本の投資機会が生まれると考えられます。ローンの返済期限が迫る資産保有者に、大規模な資本ニーズが見込まれるためです。

PIMCOが魅力的で競争相手が少ないと考える投資機会の代表例が、資産担保融資です。私募市場の中では中小企業向け融資が有利に見えますが、米国の家計の債務比率が低下し(図表4を参照)、住宅市場が依然底堅いことから、長期的なファンダメンタルズとバリューの点で、消費者向け融資等の分野が際立っているとみています。

図表4:家計債務は低下する一方、私募の企業融資は増加

図表4

図表4は、1967年12月から2023年12月までのデータを示す2本の折れ線グラフで構成されています。最初のグラフの2つの指標は、米国の家計と非金融企業の債務の対GDP比を示したものです。この間、家計の債務比率は2008年と2009年に97%でピークに達した後、2019年には74%まで低下していました。パンデミックの最中に一時的に82%に急上昇した後、それ以降は71%まで低下しています。企業の債務比率は、パンデミックの最中に92%でピークをつけ、その後、76%まで低下しています。2番目のグラフは、米国のプライベート・クレジットおよびバンクローン(FRBの資金フロー・データでは、その他貸付と前払いののカテゴリーで表示)と、非金融企業の債務を対GDP比で示したものです。同じ期間に、プライベート・クレジットは2022年に10%でピークをつけ、現在は9%となっています。非金融企業の債務比率は、2020年に38%でピークをつけ、現在は30%となっています。どちらのグラフも、米国の景気後退期は影をつけた領域で示されています。出所:FRBの資金フロー・データ、ヘイバー・アナリティクス、PIMCOの計算。
出所:米連邦準備制度理事会(FRB)の資金フロー・データ、ヘイバー・アナリティクス、2023年12月31日現在のPIMCOの試算。注:非金融法人のその他貸付金および前払金のカテゴリーは、プライベート・クレジットやバンクローンの近似値の指標として使用されます。

これは、現在、企業向け融資に集中している資本の額とは対照的です。非常に懸念されるのが、過去のデフォルト・サイクルでも試されたことのない、プライベート市場内での変動金利型の急成長です。こうした状況により、テクノロジー企業や債務比率が高く信用格付けが低い企業に対する直接融資の分野で、債務が過剰に積み上がるリスクが高まっています。長期予測の対象期間中に、課題が浮上する可能性があります。

より流動性が高い債券市場セグメントの潜在リターンの高さを踏まえると、魅力的なリターンの可能性と強力な貸し手のコベナンツ(財務制限条項)という形での高いハードルがなければ、投資家は流動性を手放さないはずです。現在の利回り水準では、質の高い先進国債、エマージング国債への配分拡大など公的債券市場へのエクスポージャーを増やすことによるリスク調整後リターンの可能性も、流動性が低いクレジット市場の領域への拡大に伴うトレードオフと比較しても遜色ありません。


1 ニューマーク・リサーチによる計算、2024年2月12日現在


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2024年PIMCO長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)ゲスト・スピーカー略歴

トビアス・エイドリアン

国際通貨基金(IMF)金融顧問兼金融資本市場局長

アニマ・アナンドクマール

カリフォルニア工科大学、コンピューティングおよび数理科学のブレン教授

デビッド・オーター

マサチューセッツ工科大学(MIT)フォード経済学教授

ジェイソン・ファーマン

ハーバード大学ケネディ・スクールおよびハーバード大学経済学部の経済政策担当、エトナ冠講座教授

ケビン・ハセット

フーバー研究所、経済学、ブレント・R・ニクラス特別研究員、大統領経済諮問委員会の元委員長

ジョン・H・コクラン

フーバー研究所、ローズ・マリー&ジャック・アンダーソン上級研究員

カーメン・ラインハート

ハーバード大学ケネディスクロール、国際金融システム担当、ミノス・A・ゾンバナキス教授

ブラッド・セッサー

外交問題評議会、ホイットニー・シェパードソン上級研究員

ウェンディ・R・シャーマン

元米国務副長官

PIMCOグローバル・アドバイザリー・ボード

経済や政治問題に関する世界的に著名な専門家で構成されるチームです。

PIMCOの経済予測会議について

PIMCOは債券アクティブ運用のグローバルリーダーとして、パブリック(公募)、プライベート(私募)両市場に関する深い専門知識を有しています。ほぼ半世紀にわたって磨かれ、様々な市場環境で実証されてきたPIMCOの投資プロセスは、長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)と短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)を基盤としています。年に4回、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルが集結し、世界の金融市場と経済の状況について議論、討論を重ね、投資に関して重要な意味合いを持つと考えられるトレンドを特定します。広範囲にわたる議論を通じて、投資アイデアを最大限に出し合い、仮定に疑問を投げかけ、認知バイアスに反論し、包括的な洞察を生み出せるよう、行動科学を取り入れています。

年1回開催されるセキュラー・フォーラムでは、世界経済の構造変化やトレンドを捉えたポートフォリオを構築するため、向こう5年間の見通しに焦点を当てます。毎年セキュラー・フォーラムには、ノーベル賞受賞経済学者、政策当局者、投資家、歴史家などの著名なゲスト・スピーカーを迎え、有益で多面的な知見の提供を受けることで、議論を深めています。また、世界的に著名な経済、政治問題の専門家から構成されるPIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードも積極的に参加しています。

年3回開催されるシクリカル・フォーラムでは、向こう6~12ヵ月間の見通しに注目し、主要先進国やエマージング諸国の景気サイクルのダイナミックスを分析し、金融政策、財政政策、ならびにポートフォリオの構成に影響しうる市場リスクプレミアムや、相対価値における潜在的な変化を見定めます。

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