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短期経済見通し

見せかけのインフレ

要約

  • 大規模な財政支援、緩和的な金融政策、ロックダウンの縮小、ワクチン接種が進む中、PIMCOでは2021年の世界経済の力強い回復を予想しています。
  • 今後数ヵ月は、インフレ率が一時的に急上昇する可能性がありますが、全般的に向こう1年~2年は、中央銀行の目標水準を引き続き下回るとみています。しかし、市場は短期的にインフレ・リスクを注視し、ボラティリティが上昇する可能性があります。
  • こうした不確実性の高い環境下において、PIMCOではポートフォリオの柔軟性と流動性を確保し、事態の展開に応じて機動的に動けるよう努めています。
  • 住宅、工業/航空宇宙、厳選した銀行・金融など、新型コロナからの回復の恩恵が大きいセクターに投資機会を見いだしています。非政府系モーゲージ担保証券(MBS)など、厳選したグローバルなストラクチャード商品を選好しています。いくつかの先進国ソブリン債で利回り曲線のスティープ化ポジションを選好し、アセット・アロケーション・ポートフォリオでは株式のオーバーウエイトを維持する方針です。

投資家は一時的なインフレの急上昇、「見せかけのインフレ」に備えると共に、困難で変動が激しくなると予想される投資環境の中で、事態の推移に機動的に対応できるよう、ポートフォリオの柔軟性と流動性の確保に努めるべきでしょう。

PIMCOの直近の短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)と戦略会議は、今回もバーチャル形式で、世界各地の投資プロフェッショナルが集結して開催されました。その主要な結論のうち二つをご紹介します。PIMCOのマクロ経済担当のチームが策定した基本シナリオでは、世界経済全般の力強い回復を予想しています。インフレ率については、リフレがもっぱら話題になっていますが、向こう1年~2年は中央銀行の目標水準を下回ると予想しています。ただ、今後数ヵ月はインフレ率が一時的に急上昇し、それが市場に「見せかけのインフレ」を引き起こす可能性があります。この基本シナリオとそれに関わるリスクを次にご説明します。

ただ、こうした予測はさておき、各国中央銀行が金融政策の引き締めを慎重に進めると約束し、財政政策が、少なくとも今年は成長を押し上げ、米国では特に大きく押し上げる要因になると見込まれる中で、フォーラムの議論はしばしば、金融市場がインフレ・リスクを注視し続ける可能性に引き戻されることになりました。

債券利回りは低水準からではあるものの急上昇し、ボラティリティが上昇しました。利回り曲線の短期部分は、中央銀行がしびれを切らさず、長期の忍耐強い計画を堅持するという主張を、多少なりとも試したものでした。PIMCOでは、目先のインフレ率上昇は持続しないと予測しています(図表1参照)。しかしながら、金融市場が短期的なインフレの上振れリスクを注視し、ボラティリティが、少なくとも最近の過去水準に比べて上昇を続ける可能性もかなり高くなっています。

図表1の折れ線グラフは、米国のCPI(消費者物価指数)のインフレ率の2016年12月から2021年2月までの推移と、2022年12月までのPIMCOによる予測を示しています。総合指数、(食品とエネルギーを除いた)コア指数とも、2020年のパンデミックの最中、数年来の低水準をつけました。PIMCOでは、2021年半ばに両指数の一時的な急上昇を予想しています。前年比の上昇率は総合指数が3.5%、コア指数が2.0%に達した後、2021年後半から2022年を通じて緩やかに低下すると予測しています。

一方、ワクチンと景気拡大に関する好材料は、ほぼ織り込まれています。PIMCOでは、リスク資産のバリュエーションは適正ないしやや過大と評価していますが、この評価の妥当性は、ワクチンの有効性と力強い経済回復への期待が実証されるか次第です。しかしながら、現在の景気サイクルはきわめて特殊なものです。基礎的な経済・金融の歪みではなく、ロックダウンや自発的な社会的距離により引き起こされた景気後退からの回復に起因しています。そのため、今後の見通しには、通常より高い不確実性が伴います。

中期的に経済に傷跡が残る可能性はかなりありますが、今年は力強い景気循環的な景気回復が見込まれます。そして、それは極めて異例の組み合わせです。それは、最古参のアナリスト以外は見たこともないほど力強い経済成長と、新たな財政正統派の組み合わせです。新たな財政正統派は、欧米で程度の差はあれ、何より足元の景気回復を確実にすることを重視します。さらに各国中央銀行は、国ごとにコミットメントに差はあるものの、インフレ率を押し上げ、包括的な雇用の最大化の達成を重視する方針をとります。インフレ率の急上昇は一時的なものであり、「見せかけのインフレ」である可能性が高いと見ていますが、PIMCOは今後実際にインフレがどうなっていくのか、その方向性について不確実性が高まっている理由を理解しています。

投資の結論:
柔軟性と流動性

ボラティリティが継続する可能性のある、現在の環境においては、ポートフォリオのポジショニングで柔軟性の確保に注力し、変化に対応できるよう努めています。具体的には、ポジションの慎重な増減、細心の注意を払った流動性管理、そして場合によっては、当面はベンチマークに近いウエイトを維持し、今後訪れる有望な投資機会を活用するといった対応が挙げられます。現在のバリュエーションを踏まえると、「流動性を増やす」ことに伴うコストはほとんどないとみています。今は忍耐強いアプローチをとることで、変動の激しい環境で今後訪れる投資の好機を積極的に掴めるはずです。

デュレーション

デュレーションは基本シナリオにかなり近いと予想しており、金利は、最近の市場の動きを受けて、適正な水準にさらに近づいたと見ています。10年物米国債の利回りが1%~2%のレンジであることに基づくと、短期的にはレンジの上限に向けて上昇する可能性があると予想しています。ただし、市場は引き続き中央銀行の対応を憶測し続け、ファンダメンタルズに比べてオーバーシュートしやすい環境にあるのは確かですが、世界の債券利回り水準がパンデミック収束に伴い、新型コロナ・ショック前の水準に比べて大きく変化するとは見ていません。債券は今後も、価値の貯蔵手段であると同時に、全体のアセット・アロケーションの観点から、リスク資産の有望なヘッジ手段であり続けると考えています。

債券は今後も、価値の貯蔵手段であると同時に、リスク資産の有望なヘッジ手段であり続けると考えています。

主要中央銀行のうち、米連邦準備制度理事会(FRB)、日銀、イングランド銀行(BOE)は、最近の市場の動きに対して、景気見通しが強まった結果と受け止め、比較的冷静に対処しました。欧州中央銀行(ECB)は、利回り上昇を懸念しているように見受けられますが、最近の発表からは、全体的かつ多面的な意味で、読み解くことがやや難しくなっています。

ほとんどの場合、中央銀行は利回り曲線の長期物の利回りの水準よりも、短期の利回りに織り込まれた利上げ期待を懸念する傾向があります。こうした考察と、当初のインフレが見せかけのインフレである可能性は、PIMCOが考える長期的に利回り曲線のスティープ化を見越したポジションを重視する方針を後押ししています。既に米国でスティープ化が見られることを踏まえると、この利回り曲線のスティープ化見通しを、英国、EU、日本のグローバルな分散につなげる、有力な根拠があるとも考えられます。

クレジット

スプレッド・セクター全般でオーバーウエイトを継続する方針です。米国の非政府系モーゲージ債(MBS)や、英国の住宅モーゲージ債などの一部のグローバルなストラクチャード商品は、一般的な現物社債に比べてバリュエーションが魅力的であり、2020年のパンデミックに伴う市場の混乱時に全般に耐性が見られたように、守りに優れた性質を有しているとPIMCOでは見ています。

社債の中では多くの場合、現物債よりクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が、バリュエーションと流動性の点で魅力的だとみています。しかしながらPIMCOでは、クレジット・ポートフォリオ・マネージャーとアナリストから成るグローバル・チームの知見を活かし、銘柄選択による超過収益の創出に今後も注力していく方針です。住宅、工業/航空宇宙、一部の銀行・金融など、新型コロナからの回復の恩恵が大きいセクターに魅力的な投資機会を見いだしています。クレジット重視の戦略の中で、こうした機会を引き続き重視する方針です。また、リスク上昇に耐えうる長期投資家が、魅力的な流動性プレミアムを期待できる環境であることから、プライベート・クレジット戦略が恩恵を受けると予想しています。

新型コロナからの回復の恩恵が大きいセクターは引き続き魅力的な水準にあり、魅力的な流動性プレミアムを期待できる環境であることから、プライベート・クレジット戦略が恩恵を受けると予想しています。

為替市場およびエマージング市場

現在のようにボラティリティが高まった時期には、為替取引のエクスポージャーの引き下げに関するご相談が増える傾向があります。PIMCOの基本的な見解としては、世界的な力強い回復と、短期金利の引き上げにきわめて慎重なFRBのコミットメントを鑑み、今後、米ドルは緩やかに下落するとみて差し支えないと考えています。PIMCOのポートフォリオにおいて、これは質の高いエマージング通貨のエクスポージャーを示唆しているとも言えますが、ボラティリティの上昇が引き続きエマージング関連資産の重しになる可能性がある間は、エマージング関連資産への戦術的なエクスポージャーについてはきわめて慎重な姿勢をとる方針です。

株式市場

アセット・アロケーション・ポートフォリオでは、株式のオーバーウエイトを維持する方針で、ディフェンシブ銘柄よりも景気循環銘柄を選好します。最近のボラティリティの高まりにもかかわらず、直近の企業決算や利益予想に示されている通り、企業のファンダメンタルズは全般に健全な状況です。セクター及び銘柄選択が引き続き極めて重要であり、PIMCOでは、財政刺激策、景気の循環的な回復、テクノロジー分野における長期的な創造的破壊の影響が大きい銘柄を選好しています。また、パンデミックから早期に脱する可能性が高く、財政支援策の恩恵を受けると見られる、米国とアジアの株式市場を引き続き選好します。

コモディティ市場

コモディティは小幅上昇しています。その背景として、世界経済の成長の加速、インフラ投資、さらには現在の在庫水準が総じて引き締まっている点が挙げられます。ただし、総合価格の上昇は限定的だと見ています。大多数の市場において全般的な引き締まりが見られないことから、コモディティの新たなスーパーサイクルが始まったとは考えていません。例えば原油を例にとると、在庫が減り、需要が力強く回復しつつある一方で、石油輸出国機構(OPEC)の市場シェアは数十年来の低水準にあり、シェールの供給の増分がほぼ現在の価格水準で市場に投入され、再生エネルギーのコストは毎年下がり続けています。コモディティ指数に占める原油の重要性と、継続的な技術革新を勘案すると、コモディティのスーパーサイクルが始まる可能性は極めて低いと考えています。

経済見通し:さらに上向き

2021年の世界経済は、1月の短期経済展望の予測よりも、さらに力強く回復する見通しです。1月以降、各国政府は財政支援を大幅に強化しており、ワクチン接種の加速により、今後数四半期にわたり、新型コロナで制約を受けたサービス・セクターの経済活動が活発化すると見込まれます。

これを受けPIMCOでは、2021年の世界のGDP成長率(現在の為替レートによる)予想を、前回の5%から6%超に引き上げました。2020年は3.5%のマイナス成長でした。PIMCOの2021年予想では、中国の成長率が8%を超え、米国の成長率も7%超を大幅に下回る可能性は少ないとみています。また、相対的に出遅れているユーロ圏や日本も、潜在成長率を上回る、それぞれ4%と3%前後の成長を達成できるとみています。2022年の暫定予測では、潜在成長率を上回るものの、緩やかな成長を予想しています。この背景として、世界の公衆衛生状況の正常化が進み、金融政策は引き続き概ね支援材料になりますが、多くの国で緊急支援策が期限切れとなり、増税も視野に入ってくることから、財政刺激が減退し、逆にマイナスになる可能性があることが挙げられます。

乱高下が予測されるインフレ

PIMCOの基本シナリオの見通しでは、今年の消費者物価インフレ率は、どの国も、総合指数と、程度は落ちるもののコア指数の両方で乱高下を予想しています。これは長期のインフレ期待の急激な変動につながり、前述のように、債券市場で見せかけのインフレが織り込まれる可能性があります。

向こう数ヵ月は、ベース効果、足元のエネルギー価格の上昇、活動が活発化したセクターでの価格調整が相まって、前年比のインフレ率が大幅に押し上げられる可能性があります。しかしながら、こうした上昇分の大半は、今年後半には反転すると予想しています。労働市場の力強い回復が見込まれるものの、完全雇用は依然として達成は難しいことがその理由です。全体としてPIMCOの基本シナリオでは、2021年から2022年のコア・インフレ率は、すべての主要先進国で中央銀行の目標を引き続き下回ると予想しています。

世界のインフレ見通しは不確実性が増しており、地域ごとに様々なアップサイド・リスク、ダウンサイド・リスクが存在します。

上振れリスクと下振れリスク

とは言え、様々な要因からインフレ率が予想以上に上昇する上振れリスクに留意する必要があります。例えば、経済成長と雇用拡大が予想を上回る可能性、エネルギー価格がさらに高騰する可能性、テクノロジー・セクター(半導体等)におけるサプライチェーンの価格圧力が財の価格に波及する可能性、金融・財政協調の深化でインフレ期待がさらに高まる可能性などが挙げられます。

逆に下振れリスクとしては、企業がパンデミックに対応して自動化とデジタル化を加速する場合や、資産価格の足元でのブームが破裂した場合は、インフレ率が予想を下回る可能性があります。つまり、2020年の長期経済展望で示した通り、インフレの見通し、特に中長期の見通しについては、一段と不透明になったと考えています。

中央銀行は現行の路線を継続する可能性が高い

金融政策については、2021年中に雇用およびインフレ目標に向けた「大幅な進展」が見込まれるため、FRBは今年後半か来年初頭には、資産買い入れの段階的な縮小を開始すると予想しています。「テーパー・タントラム」(市場の動揺)の再発を回避するため、テーパリング(量的緩和の縮小)の開始に際してはかなり前もってシグナルを発すると共に、テーパリング終了後しばらくの間利上げはないという安心感を与える可能性が高いとみられます。

市場は現時点でFRBの利上げの開始時期を2023年初頭と織り込んでいますが、包括的な雇用の最大化と平均インフレ率2%を目指すFRBの新たな枠組は、PIMCOの予想に基づくと(米国の項を参照)、時期が後にずれる可能性を示唆しています。PIMCOの見方は、この3月のFRB会合のガイダンスに沿ったものであり、参加者の大半は引き続き2024年までの金利の据え置きを予想しています。

短期的なECBの資産購入の正確な経路は、「有利な資金調達条件の保持」についてのコミュニケーションが混乱していることから、予測は簡単ではありません。この議論が起きたのは、インフレ率が2023年まで2%どころか1%に近いとECBスタッフが予想した時期であることを考えると、コミュニケーションが混乱した背景には、利回り上昇にECBがどれだけ積極的に対処すべきか、さらに言えば、インフレ目標にECBがどの程度コミットすべきかについて、理事会内部の対立があるとみられます。全体として、「ECBプット」は依然として健在ながら、ECBは今後、金融状況の変化に対して、先回りするのではなく受動的に反応する公算が高いと考えています。

地域別予測の概要

米国:
ほぼ40年ぶりの高成長を予想

ティファニー・ワイルディングアリソン・ボクサー

大規模な財政刺激策と公衆衛生状況の改善を背景に、2021年の米国の実質GDP成長率は7%を超えると予想しています。低水準からの出発とは言え、米国の実質GDP成長率としては1984年以来の最速のペースとなります。新型コロナのワクチン接種は順調に進んでおり、第2四半期末までに人口の大半の接種が終わるという、PIMCOの予想と一致しています。12月と3月に議会を通過した、新型コロナ関連の追加的な財政刺激策は3兆ドル近くにのぼり、2021年の実質成長率を2.5%~3%押し上げると見られます。成長率は2022年に大幅に減速し、3%になると予想していますが、引き続き潜在成長率を上回っています。財政インパルスの急減を、経済活動の再開と回復が穴埋めするとみられます。

米国の成長見通しは1984年以来の最強固にもかかわらず、インフレ圧力は引き続き落ち着いているとみています。

このように成長見通しが明るいにもかかわらず、PIMCOでは2022年以降のインフレ予想を小幅な引き上げに留めています。2021年第2四半期には、ベース効果と新型コロナに敏感なセクターでの価格変動により、インフレ率が上昇すると予想していますが、2021年末のCPIコア指数のインフレ率は前年比1.7%前後で、2022年末時点で前年比2.2%まで徐々に上昇するとの見方は変えていません。短期のインフレ予想が落ち着いているのは、米国経済には依然として大きな緩みがあり、力強い成長が物価に影響を与えるまでには時間がかかると見ているためです。

FRBは2021年後半ないし2022年初頭に、資産買い入れの段階的縮小(テーパリング)を開始することにより、金融政策の緩和水準を徐々に引き下げていくとPIMCOでは予想しています。しかしながら、FRBが利上げを開始するまでには、かなり時間がかかるとの予想を継続しています。FRB高官は、労働市場が広範かつ包括的に回復し、インフレ率が持続的に2%に達しなければ、利上げに踏み切れないと明確にしています。PIMCOの予測と、FRB自身の今年3月の予測によると、少なくとも2023年まで、FRBがこれらの目標を達成することはないでしょう。

米国で実質GDP成長率が7%を超えたのは、過去50年で数回しかありません。それでも、PIMCOの見通しにかかわるリスクはバランスが取れていると考えています。上振れリスクとしては、旺盛な繰延需要により、家計の貯蓄をPIMCOの予想よりも早く減少させる可能性が挙げられます。下振れリスクとしては、変異型のウイルスによって回復が大幅に遅れる可能性が挙げられます。米国の財政政策の見通しも、きわめて不確実性が高くなっています。PIMCOの基本シナリオでは、インフラ政策を通過させるものの、小幅な増税によって一部相殺されることを前提にしていますが、その詳細と可能性は依然不透明です。

ユーロ圏:ワクチン接種の加速が、経済回復を主導

二コラ・マイ

EUにおけるワクチン接種は、期待に反して遅々としたスタートでしたが、既存のワクチン・メーカーからの供給が改善され、新たなワクチンが導入されたことから、春以降ペースを取り戻すとみられます。PIMCOでは、高齢者や医療従事者など脆弱な人々が、第2四半期後半までにワクチンを接種することで、この時期以降、EU経済は、より持続可能な方法で冬のロックダウンから浮上し始めると予想しています。この時点の経済成長は勢いよく加速する見込みですが、制限の段階的解除や、長引く慎重姿勢、コロナ危機の後遺症が一部残ることを踏まえると、完全な正常化には時間がかかるでしょう。ユーロ圏の経済活動は2022年上半期にコロナ危機前の水準に戻るとみており、GDP成長率は2021年が4%超、2022年は5%近くに達すると予想しています。

欧州は不安定な経済環境下にある可能性が高い一方で、インフレ圧力は抑制された状態が続く見通しです。

インフレに関しては、税制改正とCPIバスケット(消費者物価指数に含まれる財・サービスの組み合わせ)のウエイトの変更に伴う歪みを主因に、向こう18カ月は変動が大きくなると予想しています。ただ、こうした歪みを別にすると、経済に十分な緩みがあることから、インフレ圧力は引き続き落ち着いているとみています。コア・インフレ率は、2021年、2022年共、平均1%を下回ると予想しています。こうした背景の中、ECBは引き続き景気刺激的で、2022年末まで金利を据え置き、資産購入プログラムの追加的購入を継続すると見られます。財政政策も引き続き効果を発すると思われます。米国に比べてその規模は桁違いに小さいものの、EU復興基金の支出が2021年半ばから始まることが追い風になります。

見通しに対するリスクは、概ねバランスが取れているとみています。主な上振れリスクは、経済活動の再開に伴い繰延需要が予想以上に顕在化することで、主な下振れリスクは、ワクチン接種計画のスピードと有効性に対する懸念、今回の危機によって労働市場が負った痛手と、企業の打撃が予想以上に大きいことが挙げられます。財政政策も見通しを左右する要因となりますが、EUの財政ルールは来年も引き続き停止されると見られることから、2022年以降の話になります。

英国:遅れを取り戻す

ペダー・ベック・フリイス

英国のワクチン接種は早期に開始され、政府は初夏までにほとんどの制限を解除する予定にしています。英国の経済活動は2020年に大きく落ち込みましたが、2021年第2四半期からかなり速いペースで回復し、EU諸国に徐々に追いつくと予想しています。2021年以降のPIMCOの基本シナリオにおいて、英国のEU離脱(ブレグジット)の大きな経済的影響はないとみています。一方、財政政策は、2021年以降、新型コロナ関連の緊急措置が徐々に期限切れとなるため、機械的に緊縮方向に転じる可能性があります。総合すると、EUと同様、英国のGDPは2022年上半期にはパンデミック前の水準に戻るとみており、GDP成長率は2021年は約5%、2022年は6%と予想しています。

短期経済予測の対象期間においては英国のインフレ率は上昇するとみていますが、EUと同様、CPIバスケットのウエイトの変更と、税制改正が一時的なノイズとなり、変動の激しい展開になるとみられます。こうした歪みはともかく、経済の緩みが依然として高水準であることから、基礎的なインフレ圧力は引き続きイングランド銀行(BOE)が目標とする2%を下回るとみています。コア・インフレ率は、2021年は平均1.3%、2022年は1.9%と予想しています。こうした状況を背景に、BOEは、今年の夏以降、資産購入プログラムの段階的縮小を開始し、年末時点で純購入を停止するとみられます。一方、政策金利については、BOEがFRBに先駆けて引き締める可能性は低く、開始時点は、短期経済予測の対象期間以降になるとみられます。

主な上振れリスクとしては、家計貯蓄率の早期の正常化により、予想以上のペースでの消費が回復することです。下振れリスクとしては、特に特に労働市場におけるパンデミック関連の傷跡が挙げられます。

日本:
イールドカーブ・コントロールの緩和

覚知 禎

日本の2021年のGDP成長率は3%と予想しています。大規模な財政刺激策(GDPの4%前後)と、2020年に急減した民間の内需が徐々に正常化することが主な要因です。ワクチン接種が諸外国に遅れる可能性が高いことから、回復局面も遅れる見通しですが、その勢いは2022年も続くとみられます。リスクは概ねバランスが取れており、下振れリスクはワクチンの遅れに起因し、上振れリスクは民間需要の予想以上の力強い回復に起因するとみています。

インフレについては、日本の成長は回復するものの、2021年のCPI総合指数はマイナス圏にとどまると予想しています。Go toトラベルなどの補助金プログラムや携帯料金の引き下げなどの一回限りの要因と、大規模な需給ギャップの存在は、短期経済展望の対象期間においてインフレ圧力を抑制する見通しです。

2%のインフレ目標の達成が一段と遠のく中、日銀の緩和姿勢はさらに継続されるでしょう。日銀は3月の政策決定会合で政策点検を行い、現行の金融政策の持続可能性を高める努力をしました。これにより日本国債の買い入れ額がさらに減額され、新型コロナが落ち着くとみられる今年半ばから後半には、ある程度、市場ボラティリティが許容されるだろうとみています。しかし日銀は、ゼロ%程度に誘導する10年物国債の変動幅をプラスマイナス0.25%容認するという新たな枠組みの下、10年満期の利回りの急激な上昇を引き続き抑えるものとみられます。

中国の製造業の投資が強化される可能性がある一方で、インフラ投資や住宅投資は減速すると予想しています。

中国:信用創造は適度に

キャロル・リャオ

中国のGDP成長率は、消費が牽引役となり、昨年の低水準から回復し、2021年は8%を超えると予想しています。2020年の回復は、主に政策支援による投資と旺盛な外需によるものでしたが、2021年は政策の正常化が始まり、諸外国の製造業が遅れを取り戻すことから、その勢いは衰える見通しです。しかしながら、景況感が改善し、政府が産業の高度化やサプライチェーンのセキュリティに再度注力するにつれ、製造業の投資が強化される可能性があります。一方、インフラ投資や住宅固定資産投資(FAI)は、財政支援策の段階的縮小や不動産市場の引き締めに伴い、減速する可能性があります。

多くの国でワクチン接種が拡大し、寛大な財政パッケージが実施されていることから、世界経済の力強い反発を見越して コモディティ価格が上昇しており、インフレ率は一時的に押し上げられる可能性があります。ただし中国については、豚インフルエンザの影響が収まり、豚肉価格が正常化することで、物価上昇分の一部は相殺されるはずです。したがって、CPI総合指数は引き続き落ち着き、2021年中は平均1%~2%と予想しています。マクロ政策は、段階的かつ緩やかなペースで正常化される見通しです。中国政府は、回復を確実なものにするため、政策を急転換することはないと約束しています。しかし、リスク回避が、再び政策当局の関心の的になっています。したがって、信用の伸びは鈍化し、2020年に急増した財政赤字は落ち着くと予想しています。政策金利と預金準備率(RRR)は2021年中は据え置かれるとみています。

短期の下振れリスクとして、米中間の摩擦、公衆衛生上の懸念の長期化による消費の緩慢な回復、グローバルな競争再開に伴う輸出の減退が挙げられます。上振れリスクとしては、世界経済の見通しが予想以上に明るく、米中間の緊張緩和が中国経済の回復を一段と後押しする可能性が挙げられます。2022年には、マクロ状況の継続的な正常化を見込んでおり、成長率は前年比5%~6%のトレンドに戻り、政策は成長とリスク回避のバランスを取るために十分に調整されたものになるでしょう。第14次五ヵ年計画(2021年~2025年)では、質の高い成長と生産性の向上を重視し、技術革新、内需の振興、所得格差の解消、脱炭素化を重点政策に掲げています。

エマージング市場:
ばらつく回復

ルピン・ラーマン

エマージング市場のマクロ経済見通しは建設的です。ただ、ワクチン接種のペース、サービス・観光業の回復、国内の政策スタンス、コモディティ価格上昇の影響により、収束のスピードには著しい差が出るとみられます。エマージング諸国でのワクチン接種の開始と集団免疫の確立は、先進国に比べて2~3四半期遅れる見通しです。大半のエマージング諸国が集団免疫を確立できるのは、2022年末になるとみられます。現時点ではアラブ首長国連邦(UAE)とチリが先行する一方、中南米諸国(ペルーなど)とアジアの一部の国(フィリピンなど)は、まだワクチン供給を確保しておらず出遅れています。その結果、2021年と2022年のBRIM(ブラジル、ロシア、インド、メキシコ)の予想成長率は、それぞれ6.6%と4.0%で統計上の信頼区間が大きくなっており、エマージング諸国の需給ギャップの解消スピードにはばらつきが出ると予想されます(BRIM諸国全体の予測は、対象各国の予測GDP加重平均を反映)。

BRIM諸国の2021年のインフレ率は、ベース効果、食料品およびコモディティ価格の高騰、為替のパススルーが相まって、前年比4.7%に上昇すると予想しています。ほとんどの場合、2021年末時点のエマージング諸国の予想インフレ率は、各国中央銀行のインフレ目標を下回っていますが、上振れリスク寄りです。コモディティの持続的な強さは、CPI総合指数を2~4%ポイント押し上げ、コア・インフレ率に波及するリスクを高め、政策対応を迫る可能性があります。これは、大きな需給ギャップ、財政赤字返済コストの制約と並んで、エマージング諸国全般で2021年の金融政策が一段と複雑になり、差異が生まれる可能性が高いことを意味します。短期経済予測の対象期間において、ブラジルとロシアは利上げを実施し、南アフリカとインドは金利を据え置く一方、メキシコは追加緩和を実施する可能性があるとみています。同時に、2021年の財政収支は対GDP比で約2%~3%の改善を予想していますが、多くの国にとって財政状況は依然厳しく、追加的な財政刺激の余地は限られています。

エマージング諸国にとって、その他のリスク要因は概ねバランスがとれています。政治日程に注目すると、メキシコでは重要な選挙が予定されていますが、現政党が過半数を維持すると見込まれます。格付けが投資適格から投機的等級に引き下げられるフォーリン・エンジェルやクレジット・リスクは、EMインデックスで構成比が低い、ルーマニアやコロンビアなどの小国に限られます。この4月に予想される国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の配分の増額は、外貨準備が少なく、調達金利が高い、多くのエマージング諸国にとってプラスになる可能性があります。(エマージング諸国に関するPIMCOの2021年の見通しと投資への意味合いについての詳細は、最近のPIMCOの視点「エマージング市場のアセットアロケーション:成長への投資」をご参照ください)。



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PIMCOの経済予測会議について

半世紀以上にわたって磨かれ、様々な市場環境で実証されてきたPIMCOの投資プロセスは、長期経済予測会議と短期経済予測会議を基盤としています。年に4回、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルが集結し、世界の金融市場と経済の状況について議論、討論を重ね、投資に関して重要な意味合いを持つと考えられるトレンドを特定します。

年1回開催される長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、世界経済の構造変化やトレンドを捉えたポートフォリオを構築するため、向こう5年間の見通しに焦点を当てます。毎年セキュラー・フォーラムには、ノーベル賞受賞経済学者、政策当局者、投資家、歴史家などの著名なゲスト・スピーカーを迎え、有益で多面的な知見の提供を受けることで、議論を深めています。また、世界的に著名な経済、政治問題の専門家から構成されるPIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードも積極的に参加しています。

年3回開催される短期経済予測会議(シクリカル・フォーラム)では、向こう6~12ヵ月月間の見通しに注目し、主要先進国やエマージング諸国の景気サイクルのダイナミックスを分析し、金融政策、財政政策、ならびにポートフォリオの構成に影響しうる市場リスクプレミアムや、相対価値における潜在的な変化を見定めます。

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