社債には、発行体の信用力を見る指標として第三者格付機関によっ て付与される格付によって、大きく2つの信用区分、投資適格債とハ イイールド債に分類することができます。投資適格債には4段階の格 付区分(AAA~BBB)があり、ハイイールド債には5段階の格付区分 (BB~C)があります。投資適格債は社債の中でも相対的に信用力 が高く、リスクの低い社債であると考えられます。
かつて米国の商業銀行は、債券投資において格付区分の上位4段階 (BBB格以上)だけに投資することが可能でした。このため、BBB 格以上の債券は投資適格と呼ばれたのに対し、BBB格を下回る格 付の付与された社債は非投資適格とされ、金融機関が投資するに はリスクが高いと考えられました。格付は発行体の信用力(債務返 済能力)が悪化すると引き下げられ、信用力が向上すると引き上げ られる可能性があるので、格付の変更に応じて投資適格債からハ イイールド債、また逆にハイイールド債から投資適格債へのシフトも 起こります。
投資適格債市場は、米国では国債、モーゲージ債に次ぐ市場規模を 持ち、グローバルで見ると国債の次に大きな市場です。米国の投資 適格債はグローバルの投資適格債のおよそ半分を占め、ユーロ圏、 英国なども主要な市場となっています。また、発行体は金融機関か ら一般事業会社、公益企業など、多岐に亘り、多様な投資機会を提 供します。
資産クラスとしての投資適格債
投資適格債は、①ハイイールド債に比して信用力が高く投資対象と して安定的であるとともに、②ベース金利と信用力に応じた上乗せ 利回り(スプレッド)が獲得できる資産です。
①の点についてですが、一般に投資適格債は発行体のデフォルト率 がハイイールド債に比して低く、元本の償還や利息の支払いについ て相対的に確実性が高いと評価されています。したがって、より保 守的な運用を行うポートフォリオでも組み入れを考えることが可能 です。実際に、公的機関やリスクに慎重な機関投資家の債券投資に おいては、投資適格であることが条件とされることがあります。
信用収縮局面においては、社債をはじめとしたリスク資産の流動性 は低下し、特に信用力の低い債券などは買い手の不在により価格が 大きく下落することがあります。一方で投資適格債は高い信用力と、 市場規模の大きさがあるために、流動性が枯渇しにくく、ハイイー ルド社債などと比べて価格の下落は限定的となる傾向があります。
次に②の点についてですが、投資適格債の利回りは、発行通貨の金 利(米ドルで発行された社債であれば同等のデュレーションを持つ 米国債の金利)と発行体企業の信用力に応じた上乗せ利回り(信用 スプレッド)の二つに分解することが出来ます。発行体企業の信用力 が高いほど、低い上乗せ利回りで取引されることが一般的です。この 上乗せ金利は企業業績や、企業を取り巻く経済環境など様々な要因 で変動します。社債の投資家は、ベース金利の変動とともに、上乗せ 利回りの変動リスクを取ると言えます。なお、歴史的にベース金利と 社債の上乗せ利回りは逆の相関を示すことから、投資適格債は一つ の資産クラスでありながら、異なる二種類のリスクを内包していると 考えられます。
投資適格債への投資
景気が拡大する過程では、金利が上昇することで債券価格には下 落圧力が働きます。このため、景気拡大局面は国債でポートフォリオ を運用している投資家にとって収益を生みにくい環境となります。一 方で、景気拡大は企業の業績にとって追い風となることから、企業 の信用力は向上し、社債の信用スプレッドは縮小し、価格上昇が見 込まれます。すなわち社債は、景気拡大期の金利上昇による価格下 落圧力を、信用スプレッドの縮小によって緩和することができます。
景気拡大期の信用スプレッドの縮小は、社債の信用力に応じて異な ります。ハイイールド債など信用力の低い社債はより大きくスプレッ ドが縮小する可能性がある一方で、その過程は変動が大きくなりま す。それに対し投資適格債は変動が抑えられ、より安定した値動き となります。このため、投資適格債はリスクとリターンのバランスの 取れた魅力的な投資対象の一つとなります。
投資適格債は一般的にデフォルト率が低く、価格変動も大きくない資産ですが、国債を上回るキャリーを提供します。投資適格債へ投 資し、キャリーを積み上げることにより、投資家は価格変動を抑え つつ安定した収益を得ることができます。長期に亘って投資を行う 中で、投資家は変動を抑えながら債券投資の複利効果を活かすこ とが可能です。
さらに、投資適格債市場はアクティブ運用を活用する投資家にとっ て、多様な超過収益の源泉を提供します。市場では様々な企業が発 行した投資適格債が流通しています。企業を取り巻く経済環境を分 析するトップダウン戦略に加え、個別企業やセクターのファンダメン タルズにアプローチするボトムアップ戦略を駆使することで、投資家 は市場リターンを上回る収益を追求することができます。
社債への投資にあたっては、それぞれの債券の信用分析を基盤とし たボトムアップ戦略が大きな役割を果たします。これは発行体の財 務リスク(レバレッジ、キャッシュフロー、利払い能力、流動性など)、 事業リスク(発行体企業が属する業界の全体的な動きや、業界にお ける発行体企業の競争優位性、事業計画の内容、経営陣の質や事 業計画を遂行する能力など)に加えて、当該銘柄の資本構成上の位 置付けについて分析します。綿密な信用分析を行うことで、投資家 は市場で相対的に割安にあるセクター、銘柄を見出し、超過収益を 獲得することができます。