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シリーズ1:債券-前編

債券運用におけるキャリーとロールダウン

キャリーとは

債券運用において「キャリー」という言葉がよく使用されます。一般 的に、投資に際しての「キャリー」とは、市場の状態(例えば金利水 準など)に変化がないという前提の下で一定期間内にその投資対象 からどのくらいのリターンが得られるか、つまり、その投資対象を保 有しているだけでどのくらいのリターンを得ることができるかを示す ものであるといえます。

債券運用におけるキャリーの要素を分解するにはいくつかの方法があ りますが、伝統的には「クーポン(利子)」の受取り(インカム・ゲイン) と「ロールダウン」による債券価格の上昇(キャピタル・ゲイン)に分け て考えることができます。

ロールダウンとは

ロールダウンとは、文字通り斜面を転がり落ちる動作を示す言葉 ですが、債券運用においては、イールドカーブの傾斜に沿って利回 りが下がっていくことを指します。利回りの低下は債券価格の上昇 を意味するため、図表7のように、イールドカーブが右肩上がりの形 状(すなわち、償還期限の長い債券ほど利回りが高い)であるなら ば、債券の償還期限が短縮するとともに債券価格が上昇していくこ とになります。

ロールダウン効果

更に、イールドカーブの右肩上がりの傾斜が急な部分ほど、ロールダ ウン効果が高い、すなわち、(イールドカーブの形状に変化がないと いう前提において)その債券を保有することによって得られる債券 価格上昇リターンが高い、ということができます。

実際の例を用いてみましょう。

図表8にあるイールドカーブ①とイールドカーブ②を比較すると、イー ルドカーブ①では償還期間5年の利回りは4%、償還期間4年の利回 りは3%で、一年間で利回りが1%低下するのに対して、イールドカー ブ②では、償還期間5年の利回りは同様に4%ですが、償還期間4年 の利回りは3.7%と、償還期間5年と4年の利回りの差は小さく、イー ルドカーブ①のほうがより傾斜が急なカーブとなっています。

今、市場がイールドカーブ①の状態で今後1年間変化しないという 仮定の下、償還期間5年のゼロ・クーポン債(償還価格100円とす る)を1年間保有したとすると、利回りが4%から3%に低下するのに 伴い債券の理論価格は82円から89円に上昇します。一方、市場が イールドカーブ②の状態で今後1年間変化しないという仮定の下、同 様に償還期間5年のゼロ・クーポン債(償還価格100円)を1年間保 有すると、債券の理論価格は82円から86円に上昇しますが、その上 昇幅はイールドカーブ①と比較して小さくなります。これは、償還期 間が5年から4年となるまでの一年間における利回りの低下幅はイー ルドカーブ①よりもイールドカーブ②の方が小さいためです。

イールドカーブの傾斜度による ロールダウン効果の比較

以上のように、ロールダウン効果によるキャリーは、イールドカーブが スティープな形状であるほど高くなると期待することができます。こ れは異なる通貨間の比較のみならず、同一通貨のイールドカーブ上に おいても、より傾斜がスティープな部分を選択して投資することは、 債券運用においてリターンを高めるための戦略の一つとなります。

更に、ロールダウンによるプラスのキャリーを期待できるイールドカー ブの形状であれば、仮に金利水準自体が上昇して債券価格が低下 する状況が発生しても、それによるマイナスリターンをある程度相殺 するクッションとしての役割をロールダウン効果に期待することがで きます。

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