ソフトランディングを見据えて
主な結論
パンデミック・ショックを経た現在、経済は2019年以降のどの時期よりも「正常」に近いように見えます。ただ、政策金利は依然として高止まりしています。中央銀行がより中立的な水準に向けて金利を引き下げる中、どれだけの速さでそこに到達するのか、そもそも中立的な水準とはどの程度なのかが、議論の中心になっています。PIMCOの短期的な経済見通しのポイントは次の通りです。
- 米国経済の相対的な強さを支えてきた要因は、弱まりつつあります。これは米国が再び、世界の他の地域と足並みを揃えるリカップリングが進み、インフレ抑制にさらなる前進が見られることを示唆しています。
- 先進国市場は、消費需要の正常化と限られた求人をめぐる競争の激化により、2025年に目標インフレ率の水準に戻っていく軌道に乗っているように見えます。米国では、労働市場が2019年よりも緩和的で、失業率上昇のリスクが高まっています。米連邦準備制度理事会(FRB)は、他の先進国の中央銀行と同様、この新たな景気循環的な状況に合わせて、金融政策を再調整するものとみられます。
- 米経済は、他の国と同じように、景気後退に陥ることなく緩やかな成長とインフレが続くという、類いまれなソフトランディングを実現する態勢を整えているようです。しかし、リスクはあります。11月に控えている米国の大統領選挙と議会選挙、さらに、その結果が関税、貿易、財政政策、インフレ、経済成長に与える影響がリスクといえるでしょう。高水準の財政赤字が続く可能性が高く、さらなる財政刺激の余地が限られていることも、経済上のリスクを高める要因になります。
先進国経済が減速し、貿易摩擦や地政学的な対立が迫る中、投資家は慎重な姿勢で、ポートフォリオのポジショニングに柔軟性を取り入れるべきでしょう。PIMCOの短期的な投資見通しのポイントは次の通りです。
- 中央銀行が短期金利を引き下げるにつれてイールドカーブはスティープ化し、債券投資にとって好ましい環境が生まれると予想しています。歴史的に見ても、質の高い債券はソフトランディング時には好調に推移し、景気後退時にはさらに好調な展開となる傾向があります。また最近では、株式との伝統的な逆相関関係が戻ってきたことから、債券は貴重な分散効果をもたらします。
- 債券利回りは、名目でもインフレ調整後の実質でも魅力的であり、特にイールドカーブの5年ゾーンに投資妙味があります。キャッシュ・レートは政策金利とともに低下するとみられますが、長期債の利回りは高水準の財政赤字を背景に、長期的に押し上げられる可能性があります。
- バリュエーションのタイト化により企業クレジットにある種の慢心が見られることから、PIMCOでは慎重なスタンスを継続し、質の高い債券とストラクチャード商品を選好しています。低格付けの変動金利型のプライベート市場の領域は、価格が示唆する以上に景気減速や金利変動に対して脆弱であるように見えます。利回りの低下と同時に信用リスクが上昇する可能性があり、これは借り手に恩恵をもたらす反面、投資家には打撃になりえます。米国の政府系モーゲージ債(MBS)は、企業クレジットに代わる魅力的で流動性の高い選択肢です1 。さらにプライベート市場の投資家には、消費者関連、非消費者関連の両分野において、アセット・ベースド・レンディング・セクターが、特に企業融資との対比で魅力的な投資機会を提供しています。
- 為替市場では、FRBが利下げを実施していることから米ドルをややアンダーウェイトとする一方、先進国通貨、エマージング諸国通貨両方から分散を進めています。
経済見通し:再び連動する経済とリスクの再定義
米経済は2023年、2024年と際立った強さを見せ、他の先進国が成長率0%~1%で概ね足踏みする中、2.5%~3%の成長を達成しました。米国は生産性でも、パンデミック以降、他の先進国を上回っており、2024年4月のPIMCO短期経済展望「分岐する市場、グローバル分散投資」では、米国について主に2つの要因を特定しました。
- 財政政策:2021年以降の大規模な財政刺激策を受けて積み上がった多額の個人資産を時間をかけて消費しています。
- 金融政策:既存の住宅ローンが低金利の長期固定であるため、金利上昇の家計への影響は緩やかです。
さらに、米国のプライベート・クレジット市場が突出している点も、より緩和的な金融環境が維持されている要因だと考えられます。他の市場へのアクセスが難しい脆弱な企業に資金が提供される一方、投資家の資本がより質の低い企業融資に流入したことで、取引をめぐる競争が激化しています。
米国は、中国経済の低迷による波及効果の影響もさほど受けていません。欧州各国、とりわけドイツは、対中貿易の減少と中国の輸入競争により打撃を受けています。生成AIによる財務上の利益と資本蓄積も、相対的に米国に有利に働いています。
2024年の米国は、インフレ抑制の点でも、他の先進国よりも進捗が緩やかでした。FRBが重視する個人消費支出(PCE)インフレ率のコア指数は、今後数ヵ月、厳しいベース効果により前年比が押し上げられる可能性が高いため、2024年末は2023年末に近い水準になると予想されています。
対照的に、同期間、他の先進国のコア・インフレ率は、1%~1.5%ポイント減速した可能性が高いとみられます(図表1を参照)。欧州では、需要の低迷と企業の利幅圧縮が、高止まりする単位労働コストの上昇を相殺し、インフレ抑制がさらに進みました。
米国のアウトパフォームを支えていた要因は薄れつつあり、世界経済とある程度足並みを揃えるリカップリングを示唆しています。米国の実質資産残高の指標は、他の先進国の指標とかなり似通ったものになっています。他の地域の成長を阻害してきた金融政策のショックも和らぎつつあります。
欧州の成長は、金利の低下と、2022年のエネルギー価格高騰後の貿易状況の改善に伴い、より正常なペースに回復する可能性が高いとみられます。これが、政府支出の削減と世界的な製造業の環境悪化の穴埋めを助けることになります。移民は、多くの先進国、とりわけ米国の成長を支えてきましたが、2024年半ばに施行された移民制限策の影響が出始めており、今後は成長の逆風になると予想されます。
米経済は、諸外国と成長サイクルの足並みが揃っていくとはいえ、引き続き明らかに優位な点がいくつかあるとPIMCOは考えています。特筆すべきは、堅調な設備投資とAI投資のトレンドが、潜在成長力を大きく押し上げる可能性がある点です。特に中国との競争にさらされ、エネルギーの輸入依存度が高いドイツや他のEU諸国と比較した場合、米国の優位性は際立っています。最近の経済指標の改訂により、米国の貯蓄率はパンデミック前のレンジ内にとどまりました。このため過大な消費に対する懸念は和らぐはずです。
金融政策は正常化へ…
米経済の成長が底堅く、インフレが高止まりしていたことから、FRBは他の中央銀行に比べて利下げサイクルの開始が遅れました。しかし、インフレの行方を示す指標は、2025年にはFRBが目標とする2%に向けてさらに前進する可能性が高いことを示唆しています。この見通しを裏付ける要因として、単位労働コストの上昇率が2%に近いこと、失業者に対する欠員の比率が2019年の水準を下回ること(図表2を参照)、失業率が上昇しFRBが安全圏と考える約4.2%を上回る可能性があること、が挙げられます。
米国以外の先進国全般でも、需要の減速、労働市場の緩和、インフレ期待の安定が見られ、2025年にインフレ率が目標水準に近づくことを示唆しています。豪州の労働市場の指標は、同国の進捗がやや遅いことを示しています。一方、カナダはインフレ率が目標水準を下回る可能性が最も高い先進国として目立っています。
こうした状況を背景に、中央銀行、特にFRBは、政策金利を中立的な水準に戻すことに焦点を当てています。先進国の中央銀行は、2025年に175~225ベーシスポイント(bps)の利下げを行うとPIMCOでは予想しています。
中立的な推定値を下回る政策金利を維持している日本銀行(BOJ)は、依然として他国と大きく異なる状況にあります。最近の市場ボラティリティや円高にもかかわらず、日銀は緩やかな利上げを続けるだろうと予想しています。日本は賃金インフレが依然堅調で、インフレ率の上昇によりインフレ期待が上昇した唯一の国です。
……しかし、正常化とは?
先進国の経済状況が、2019年以降のどの時期よりもパンデミック前の水準に近づいている現在、議論の焦点は「『正常』な金融政策とは何か」に移っています。
中立金利が10年前より若干高いと考えられる要因としては、政府債務水準の上昇、防衛費の増額の可能性、一般的に強化された民間部門のバランスシート、貿易関係の再編やAIの急速な発展などグローバルで長期的な変革に伴う投資ニーズの増加、といった点が挙げられます。
しかしながら、人口動態や資産格差の長期トレンド、投資サイクルのペースや規模が不確実であることを踏まえ、PIMCOでは長期の実質中立金利の予想を0%~1%とする見解を継続しています。詳細は、最新の長期経済展望「債券利回りの優位性」で述べています。これは中立的な名目政策金利が2%~3%のレンジであることを意味します。前述の長期経済展望を6月に公表した際、当時の市場に織り込まれた金利水準は、中立政策金利が4%を下回る可能性が低いことを示唆している点に注意を促しました。それ以降、市場に織り込まれた水準は、PIMCOの予想に近づいています。
中立的な政策金利の水準をめぐる不確実性を考えると、中央銀行が自国経済の反応を見極めるために一連の利下げに踏み切るのは自然なことです。成長が再加速し、インフレ上振れリスクが再浮上した場合、中央銀行はいつでも金融緩和を一時休止、ないし減速することが可能です。逆に、景気が失速したり、雇用が低迷したりした場合は、より大胆な利下げを実施する余地があります。様々なシナリオの下で、中央銀行には利下げの余地があるとPIMCOは考えています。
リスクと不確実性
世界経済の見通しに対するリスクは変化しています。労働市場やその他の市場における需給バランスが改善したことから、インフレ・リスクは低下しています。ただ、無くなったわけではありません。成長は減速しています。先進国の景気後退はPIMCOの基本シナリオではありませんが、そのリスクは過去の平均頻度に比べて、やや高くなっているとみています。また、経済成長がより強靭であることが明らかになり、インフレが再加速するシナリオもあります。
米国の主なリスクとしては、経済活動の鈍化と労働市場の成長により、景気サイクルに拍車がかかり、結果としてより顕著な景気後退に陥ることが挙げられます。一方他の先進国は、より安定しているように見えます。それでも低成長が続いているため、市場の混乱や地政学的な情勢悪化など、負のショックを受けやすくなっています。
中国は独自の課題を抱えています。輸出と製造業投資に依存する成長モデルは、限界に達しているようです。中国は現在、過剰な住宅在庫、消費需要の低迷、貿易摩擦の高まりに直面しています。これに対し中国政府は最近、資産価格を押し上げ、住宅価格の下落を緩和するための施策を発表しました。
しかし、これらの政策の実効性は、信頼の回復と、より広範な家計に対する政府の直接支援につながるかどうかにかかっているとみられます。財政的な対応がとられる可能性も高く、向こう1、2四半期は成長モメンタムの創出に寄与する可能性があります。
中国の成長率は、2023年、2024年の5%から2025年には4%~4.5%に減速すると予想しています。一方で、中国はデフレを世界に輸出し続けるとみています。コモディティ需要、特に建設関連の需要は、最近発表された政策からある程度の支援を得られる可能性がありますが、新規住宅供給の規制を考慮すると、過去のサイクルほど盛り上がる可能性は低いでしょう。
中東やウクライナの紛争から、向こう1年に多くの国で実施される選挙まで、地政学的リスクは引き続き不確実性の源泉として大きく立ちはだかり、幅広い市場センチメントや特定の国やセクターに影響を及ぼすと考えられます。
11月に控えている米国の大統領選挙と議会選挙は、そうした不確実性の要因の一つであり、政策にきわめて重要な影響を及ぼします。
- 民主・共和どちらの政党が勝利するにせよ、最大の敗者になるのは米国の財政赤字です。来年は、2017年減税・雇用法の個別条項が期限切れを迎えることから、税制改革がワシントンを支配するテーマになるでしょう。多数派の僅差の勝利が予想されること、大統領の所属政党と議会多数派が異なる分割政府になる可能性、財政余地が乏しい点を考慮すると、追加の財政刺激はそれほど多くないだろうとみています。しかしながら、財政再建も期待できません。2017年減税の大半を延長するための支出を相殺するものがほとんどない、また社会保障費を抑制する政治の意向もないことから、何らかの追加の政策変更がなければ、年間の財政赤字は対GDP比6%~7%で高止まりする可能性があります。これは、米国のイールドカーブがスティープ化するとのPIMCOの見方を強めるものです。
- 関税の行方も、誰が選挙に勝つかに関係なくはっきりしています。しかし、ドナルド・トランプ前大統領が返り咲いた場合、グローバル経済を破壊しかねない貿易政策がとられる可能性が高まりそうです。一方、カラマ・ハリス副大統領が勝利した場合は、より的を絞った現行のアプローチを継続する可能性が高いとみられます。短期的に、関税の引き上げはインフレを誘発し、成長の足を引っ張る可能性が高いでしょう。関税は、米国の有形投資を割高にし、米国の輸出部門の競争力を低下させることで打撃を与え、需要を圧迫する可能性があります。米国の緊密な貿易相手国にとっても、政府が似たような貿易障壁で報復するとすれば、関税はインフレ要因になります。その一方で、貿易の不確実性の高まりによる世界経済の成長鈍化がコモディティに重くのしかかり、以前は米国市場に供給されていた製品が振り向けられることから、デフレ要因にもなりえます。関税の相対的な影響は、FRBにとって判断の難しい経済環境を生み出すことでしょう。金融政策立案者は、関税の追加コストが消費者に転嫁され、短期的にインフレ率が上昇した場合、実質所得の減少による景気下振れリスクがありますが、インフレ期待が上昇するリスクがあることに留意しなければなりません。
投資への意味合い:質の高い債券には有利な状況
不確実性、世界的なばらつき、潜在的なボラティリティは、アクティブ運用の債券投資家にとって好ましい環境を作り出しています。特に金利低下は債券の追い風となります。歴史的に見ても、債券はソフトランディング時に良好なパフォーマンスを発揮し、景気後退シナリオではさらに好調な展開となる傾向があります。最近では、株式との伝統的な逆相関関係が戻ってきたことから、債券はポートフォリオに分散効果とヘッジ機能をもたらしています。さらに債券は、株式などの他の資産に比べても割安に見えます。
FRBや他の中央銀行が短期金利の引き下げを続ける中、過去の緩和サイクルのパフォーマンスと同様、イールドカーブは引き続きスティープ化すると予想しています。景気後退はPIMCOの基本シナリオではありませんが、米国の成長が鈍化する中、景気リスクが依然として不確実性の要因となっています。このリスクに輪をかけているのが、来る米国の大統領選挙と議会選挙をめぐる不確実性、特に世界貿易の見通しです。こうした背景から、ポートフォリオではポジション調整に慎重なスタンスと柔軟性の維持が求められます。
金利とイールドカーブ
米国債の利回りは、現在の水準が概ね妥当だとみています。米国でも他の先進国でも、イールドカーブの5年の領域は特に魅力的に見えます。中央銀行が政策金利を引き下げると、現金やその他の短期商品に再投資リスクが生まれます。PIMCOでは、中期債を魅力的な利回りで固定することを選好しています。これらは利下げ局面において、価格上昇の恩恵を受ける可能性があり、歴史的に見ても良好なパフォーマンスを発揮する傾向にあります。一方、長期債については、巨額の財政赤字が長期債の利回りを長期的に押し上げる可能性があることから、慎重な姿勢を継続しています。
現在の経済状況とFRBが9月に0.5%で利下げを開始したことを考えると、イールドカーブの短期部分に織り込まれたFRBの予想緩和ペースは、妥当であるように思われます。また、前述のように、長期の中立金利を0%~1%とみるPIMCOの基本シナリオを前提とすると、ターミナルレートの予想も妥当に見えます。ただしインフレのテールリスクについては引き続き留意しています。景気後退に陥れば、ターミナルレートは大幅に低下する余地があります。
債券市場と株式市場には、伝統的な逆相関関係が戻ってきました。これは金利リスクの指標であるデュレーションと株式の相関性が負であることを意味します。そのため株式市場の低迷に対して、債券がポートフォリオをヘッジする機能が高まっています。地政学的リスクが高まっている時には、このヘッジ機能が特に重要になる可能性があります。インフレ連動債は、インフレ対抗手段として価格が割安で、利回りが(インフレ調整後の)実質、名目とも魅力的なことから、配分を増やすのが望ましいと考えられます。
クレジットの見通し
企業クレジットについては、バリュエーションの引き締まりと景気後退リスクがやや高まったことから、慎重なスタンスを維持しています。景気サイクルの現時点では、流動性と柔軟性、マクロ経済の低迷の可能性に対する堅固なポジショニングを重視し、低格付けのクレジットよりも質の高いクレジットとストラクチャード商品を選好しています。
一般に、PIMCOでは質の高い投資適格債を選好しています。質の高いベンチマークを持つポートフォリオにおいては特に、信用力の低下を考慮して高い基準を設定しています。その他のクレジット市場では、レバレッジド・クレジットにおけるコベナンツのプロテクションの悪化を警戒しています。特異な経済ショックやシステミックな経済ショック時に回収率が低下する可能性があるためです。
政府系モーゲージ債(MBS)は、バリュエーションが魅力的で、散発的な短期のボラティリティを許容できる投資家にとっては、企業クレジットに代わる流動性の高い投資機会を妥当な価格で提供します2 。
プライベート・クレジット市場では、現在の利回り水準と比べた場合、過度な成長と慢心が将来のリターンを悪化させる可能性があるとみています。大規模な資本形成の結果、貸し手の保護が弱まり、パブリック、クレジット両市場でアクティブ運用者が類似する投資機会から得られるリターンと比較すると、非流動性に対する報酬が圧縮されています。
プライベート市場において、低格付けの変動金利型の借り手の多くは、市場価格が示唆するよりも、景気の悪化や金利変動の影響を受けやすいと考えています。FRBが景気後退を防ぐために金利を引き下げた場合、変動金利のクーポンも大幅に下がる可能性があります。これは、経済リスクや信用リスクが高まると同時に利回りが低下することを意味し、借り手に恩恵をもたらす一方、投資家には打撃を与える可能性があります。これらの市場が景気後退シナリオで実証されるのは、今回が初めてです。
こうした背景を踏まえると、今日の投資家は、プライベート市場の質の低い企業クレジットでは、リスクに対する十分な報酬を受け取っていない可能性があります。特に超過リターンが魅力的な、流動性がより高いクレジット商品や、流動性が同様に低い資産担保融資と比べると、不十分だと言えるでしょう(詳細は、2024年7月18日公開(日本語版)の「パブリック(公募)/プライベート(私募)両方のクレジット市場の現状:流動性、リスク、潜在的なリターン」をご覧ください)。
銀行のビジネスモデルの崩壊で、プライベート市場には、消費者関連(住宅ローン、学生ローン等)と非消費者関連(航空機、設備機器等)など、アセット・ベースド・レンディングに投資を開始するには、魅力的なタイミングが生まれています。プライベートなコーポレート市場と比較すると、開始時点の魅力的なバリュエーションと良好なファンダメンタルズの組み合わせの恩恵を享受することができるとみられます。質の高い消費者のバランスシートと関連づけられた分野は、特にそうだと言えます。プライベート市場でのアセット・ベースド・レンディングの資本形成が、欧米の企業向け融資市場に比べてかなり不足しているため、これらの市場は相対的に見て過密な状況にもありません。
プライベートの不動産市場は底打ちが近いと考えていますが、過去のサイクルに比べて回復に時間がかかるだろうとみています。現在のバリュエーションでの株式との対比で、データ・インフラや債務関連の投資を選好しています。データ・インフラ、物流、および一部の集合住宅に関連する資産やセクターに重点を置いています。
グローバル市場の見解
経済見通しや中央銀行の政策軌道のばらつきを踏まえ、PIMCOでは、英国と豪州のデュレーションのポジションを選好しています。これは、市場に織り込まれた中央銀行のサイクルのターミナルレート(図表3を参照)が、米国、ユーロ圏、そして他のグローバル市場に比べて依然やや高いとみられるためです。
ユーロ圏では、市場に織り込まれている欧州中央銀行(ECB)のターミナルレート(金利の最終到達水準)は妥当に見えますが、緩和サイクルがどの程度のペースで進むかについては不確実性があります。全体として、デュレーションについては中立ですが、10年と30年のポイント間のフラット化を考慮すると、イールドカーブのスティープ化ポジションを選好しています。
外国為替については、FRBの利下げに伴い弱含むリスクがあることから、米ドルのポジションをアンダーウエイトとし、エマージング諸国と先進国のポジションでの分散を選好しています。しかしながら、米国の選挙をめぐる不確実性を考慮すると、ポジション調整には慎重なスタンスが求められます。
先進国全般で利下げサイクルが進む中で、米ドルが安定から弱含むことで、エマージング諸国の中央銀行に利下げの余地が生まれるでしょう。FRBが政策を据え置いている間、これらの中央銀行の多くは、国内の軽微なインフレ下で通常必要とするよりも金利を高めに維持しなければなりませんでした。
PIMCOでは、イールドカーブがスティープで、政治情勢が安定ないし改善している国、具体的には南アフリカやペルーへの投資を選好しています。トルコについても、より正統な経済への転換を進めている点から、引き続き関心を持っています。良好なグローバル環境が、引き続きエマージング諸国の外債のスプレッドを下支えすると予想しています。
一部のコモディティは、ポートフォリオの分散に役立ち、インフレ・リスクに対するヘッジ機能を提供します。変化する世界情勢が引き続き金(ゴールド)をはじめとする貴金属を支えており、ロシアのウクライナ侵攻以来、エマージング諸国の中央銀行は異例のレートで金を購入しています。一方、原油については、最近の中東やウクライナ情勢で世界的なサプライチェーン(供給網)の脆弱性が浮き彫りになったにもかかわらず、OPECプラスが供給を再び市場に委ねる意向であることや、世界的な輸送需要に対する懸念を背景に、価格の上昇は限定的です。長引く中国の成長の下振れリスクが懸念材料になっていますが、エネルギー転換に関連する設備投資サイクルも卑金属の価格を支えています。
PIMCOの経済予測会議について
PIMCOは債券アクティブ運用のグローバル・リーダーとして、パブリック、プライベート両市場に関する深い専門知識を有しています。PIMCOの投資プロセスは、長期経済予測会議と短期経済予測会議を基盤としています。年に4回、世界各地からPIMCOの投資プロフェッショナルが集結し、世界の金融市場と経済の状況について議論、討論を重ね、投資に関して重要な意味合いを持つと考えられるトレンドを特定します。広範囲にわたる議論を通じて、投資アイデアを最大限に出し合い、仮定に疑問を投げかけ、認知バイアスに反論し、包括的な洞察を生み出せるよう、行動科学を取り入れています。
年1回開催される長期経済予測会議(セキュラー・フォーラム)では、世界経済の構造変化やトレンドを捉えたポートフォリオを構築するため、向こう5年間の見通しに焦点を当てます。毎年セキュラー・フォーラムには、ノーベル賞受賞経済学者、政策当局者、投資家、歴史家などの著名なゲスト・スピーカーを迎え、有益で多面的な知見の提供を受けることで、議論を深めています。また、世界的に著名な経済、政治問題の専門家から構成されるPIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードも積極的に参加しています。
年3回開催されるシクリカル・フォーラムでは、向こう6~12ヵ月間の見通しに注目し、主要先進国やエマージング諸国の景気サイクルのダイナミックスを分析し、金融政策、財政政策、ならびにポートフォリオの構成に影響しうる市場リスクプレミアムや、相対価値における潜在的な変化を見定めます。
1 流動性についての言及は、通常の市場環境を基準としています。↩
2 同上。↩
ご留意事項
過去の実績は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行体、信用、インフレ、流動性などに関するリスクを伴うことがあります。ほぼ全ての債券及び債券戦略の価値は金利変動の影響を受けます。デュレーションの長い債券及び債券戦略は、より短い債券及び債券戦略と比べて金利感応度と価格変動性が高い傾向にあります。一般に債券価格は金利が上昇すると下落します。低金利環境下ではリスクが高まります。債券取引におけるカウンターパーティーの取引能力の低下が、市場流動性の低下や価格変動性の上昇をもたらす可能性があります。債券投資では、換金時に当初元本を上回ることも下回ることもあります。政府が発行する物価連動債(ILB)は、元本価値がインフレ率に連動して定期的に調整される債券です。実質金利が上がった場合、物価連動債(ILB)の価値は減少します。モーゲージ担保証券と資産担保証券は金利水準に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴います。一般に政府、政府機関、民間保証会社からの信用補完が付されていますが、保証を提供する主体が債務を履行する保証はありません。政府系および非政府系モーゲージ担保証券は、米国で発行されたモーゲージ債を指しています。CDO(Collateralised Debt Obligations)やCPPI(Constant Proportion Portfolio Insurance)、CPDO(Constant Proportion Debt Obligation)などのストラクチャード商品は複雑な投資商品です。こうした商品には高水準のリスクを伴うことが一般的であり、そうしたリスクを把握できる高度な知識を有する機関投資家にのみ、提供されることを想定しています。デリバティブ商品を含むこれら商品を利用することにより、投資元本以上の損失を被る可能性もあります。市場価値はまた、経済・金融・政治の環境(直物及び先物の金利及び為替レートを含むが限定されない)、償還、市場情勢及び発行体の信用力の影響も受けます。プライベート・クレジットは、流動性リスクを伴う可能性のある非公開有価証券に投資する可能性があります。プライベート・クレジットに投資するポートフォリオではレバレッジが利用される場合があり、投資の損失のリスクを増加させる可能性のある投機的な投資行動を伴うことがあります。外貨建てあるいは外国籍の証券への投資には投資対象国の通貨価値の変動や経済及び政治情勢に起因するリスクを伴うことがあり、新興成長市場への投資ではかかるリスクが増大することがあります。為替レートは短期間に大きく変動する場合があり、ポートフォリオのリターンを減少させる可能性があります。コモディティは市場、政治、規制、自然などの条件により高まるリスクを伴い、全ての投資家に適しているとは限りません。マネジメント・リスクとは、PIMCOが用いる投資手法およびリスク分析が望んだ結果を生まないリスク、また、政策や変更等が戦略の運用においてPIMCOが利用可能な投資手法に影響を及ぼしうるリスクを指します。特定の証券や種類の証券の信用格付により、ポートフォリオ全体の安定性や安全性が確保されるわけではありません。分散投資によって、損失を完全に回避できるわけではありません。
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